雑誌や広告の仕事で世界中を旅し、写真を撮り続けている伊藤徹也さん。その一枚一枚には、被写体の体温やその土地特有の匂いが感じられ、見る人の心に深い印象を残す。
 「風景や人、物などとの出会いは運。そう思えるまでに、ずいぶん時間がかかりましたけれど(笑)」。
 緑一色の広大な牧草地で、ぽつんぽつんと羊が草を食んでいる瞬間をとらえたこの作品は、羊の“ポツポツ感”が何とも面白かったのだという。場所は、雑誌『BRUTUS』の取材で訪れた、ニュージーランドのトンガリロ国立公園。どしゃぶりの雨の中、マウンテンバイク用のコースを走っていたときにこの風景が目に飛び込み、思わずマウンテンバイクをとめ、瞬時にシャッターを切った。光は撮影で最も大切にしていることのひとつだが、このときは光が弱かったのが幸いだった。地面に陰影が出なかったため、まるで空撮のようにフラットに写り、この風景のユニークさが際立った。
 「風景にしろ、人物にしろ、意図的ではない“鮮度のある”ものに心がぐっと惹かれます。自分の直感に素直になり、心に響く何かに出会ったら、思いのままにシャッターを切る。そうして瞬間をとらえることが、旅の写真の醍醐味なんです」

撮影 伊藤徹也 / 文 小口梨乃