物質から人類を解放したい――猪子寿之さん
ヨガを感じる人 vol.1
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ヨガを真理の探究という大きな意味で捉えるなら、ヨギはあらゆる所に居て、ヨガの師もあちこちに見つける事ができると思います。
ここ数年、私が沢山の気づきを貰っているのがウルトラテクノロジスト集団 チームラボの代表 猪子寿之さんです。はじめて見たのは朝まで生テレビという討論番組で、他の人たちと佇まいも視点も全く違う猪子さんに釘付けになりました。
またその作品は来る人の振る舞いに影響を受けながらずっと変化し続けるため、二度と同じ瞬間は見られないように出来ていて、それはまさにこの世界、自然の真理そのものを現しています。
観に来る(というよりは参加する、体験する、一部になる)人々は、自分がそこに溶け込み、周りと影響しあって世界をクリエイトしている、という感覚を無意識のうちに共有します。それは、個で考え個に閉じこもる事に慣れがちな現代の私たちが忘れていた、深い所にある大事な感覚、全ては繋がり1つである、という意識を呼び覚ましてくれるように思います。
「自分と世界との境界が曖昧になる状況を作りたい。自分が世界の単なる一部でしかないという体験を、近代以前だと、恐らく森の中とかで人はしていたんだと思うけど。今ってそういう体験をしない。
人は他者とともにこの世界をつくってきたし、これからもつくっていくべきなんです。そんなことを現代では直感的に感じられなくなってしまっている。もし自分の世界が他者と共通で、他者によって世界が変わっていくってことを直感的にもう少しわかれば、他者との関係は変わるんじゃないかな。
もともと世界はそうだったと思うんです。昔の、たとえば棚田だったら、他者の水田がなければ自分の水田は存在できない。川と自分の水田の間に他者の水田が存在するから、自分の水田が存在すると目に見えてわかるわけですよね。耕してくれてありがとう、水引いてくれてありがとう、みたいな話じゃないですか。」
――東洋経済オンライン インタビューより
――cinra.net インタビューより
「人は感動したいだけなんだよね。その感動を所有したくて、絵画を買ったり彫刻を買ったりする。デジタルの前というのは、絵画が銀箔や絵の具に付着しないと存在できなかったから、物質そのものに価値があるかのように人類は勘違いしちゃった。
僕は、物質から人類を解放してあげたほうがいいと思っている。だってかわいそうじゃん。所有することがうれしいだけでしょう。感動は物質とは本質的には関係ないのに。」
――東洋経済オンライン インタビューより
「人類にとって本質的に意味がある事だったり、人類の何らかの課題を本質的にちょっとでも解決していることの方が価値が高いと人々は感じるようになっていくんじゃないかと思うんです。」
――YouTube レクサスジャパンchannel ゲストトークより
以前テレビの密着番組で、「質量はダサいって時代になったらいい」と言っていて、私は何てかっこいいんだ、と思いました。この物質至上主義の現代に向かってこんなに軽快な言葉で価値観の転換を示す人はいないと思います。
宗教でも道徳でもヨガでもなく、そういったものと逆だと思われがちな最新のデジタルテクノロジーを使って、誰もが楽しめる新型のアートとしてそれ(大事なものは何なのか)を提示するその才能に、尊敬の念を抱きます。宗教や道徳では無理だったその答えに人々を進めていくであろう活動から目が離せません。
もう1つヨガ的な私の見解を言えば、「主観思想と無限概念が東洋的でありこれからの方向性だ」と言う猪子さんは、正にヨーガ(梵我一如)の人だと思うのです。
文 ヨガインストラクター ミヤビ/写真(チームラボの作品)・編集 七戸 綾子