インプットをアウトプットに
第九夜
モ
モ
は
いつもより丁寧にヨガマットをくるくると巻き、棚にしまう。モモのマットを見た
キ
キ
は
自分がさっきぽんと投げ入れたマットを出してもう一度巻き直す。これでよし。きれいなマットが二本並んだ。キキたちにヨガを教えた
ヒ
カ
リ
は
「ありがとうございました」とみんなを見送る。今日初めての人、一生懸命だったな。私も初めてここに来た日はあんな感じだったのかな。ヒカリと目が合った
メ
イ
は
思わず会釈する。もー、腕とか脚とかぷるぷるしちゃったよ。カイも一緒に来ればよかったのに!「先生、また来ます!」ふたりは笑顔で手を振った。メイを待っていた
カ
イ
は
興奮しているメイの顔を見て吹き出す。テンション高いなー。この調子だと、メシ食う間ずっとしゃべってそうだな。メイが話す。カイが聴く。カイも話す。メイも聴く。おしゃべりは流れ流れて、いつの間にかみんなで旅行に行くことが決まった。メイとカイの隣のテーブルにいた
ナ
ツ
は
ついついふたりを見てしまう。なつかしいな。大学生ぐらいかな。そういえば、卒業して10年経ったらみんなで旅行しようって約束してたっけ。ナツはアキにメールする。
ア
キ
は
驚く。なんでわかったの! ちょうど今ナツにメールしようとしてたんだよ! ナツはアキに会いに行った。アキの家のそばの古い酒屋に入り、ナツとアキはお酒を買う。笑い声が響く。いいねえ、若い人は。お客さんが楽しそうにお酒買っていくと、私も一杯やりたくなっちゃう。酒屋っていうのはいい商売よ。自分の好きなものを売るんだもの。それがどんどん広がっていくんだもの。「これ、サービス」。小さなおつまみの袋を手渡す
ウ
メ
の
横
で
猫のマチコがみゃあと鳴いた。
マ
チ
コ
は
猫だが、生きる術を知っている。なんとなく惹かれるほうに行くと、必ずそこにマチコを待っているものがある。ふと思いついたとおりに行動してみると、必ずそれがマチコの一生をかけた役割とつながっていく。喜べること、喜ばれることを続けていけば、社会の中で生きてゆける。「マチコ、おいで」。ほらね。マチコはウメに抱かれて膝の上でのどを鳴らした。
こんばんは。あたらしい年がはじまってしばらく経ちましたが、いかがお過ごしですか。私は立春に向けてやっと今年のテーマを決めました。それは「好きだから」に戻ることです。
去年、ある小さなステージの本番3日前になって、突然フルートが鳴らなくなってしまうという人生初のアクシデントがありました。楽器に故障はなく、精神的な原因だとわかっていても、練習すればするほど音はガサガサに割れていきます。このままだと確実に失敗する。とてもこわくなり、泣いて感情を出し切ってしまおうと思いました。
えーん、こわいよー。かっこわるく泣きながら気づいたのは、子どもの頃からずっと、言葉にもならない奥深いところで「勝とうとして」吹いていたということ。コンクールのため、褒められるため、自信のなさを埋めるため……それなのに、音楽はどれだけ私を潤してきてくれたか。周りの人はどれだけ私に音楽を教えてきてくれたか。私にできるのは「好きだから」吹くことだけやん、それしかないやんと思い、わーん、ごめんよーと泣き切った次の日、嘘みたいに音が出ました。
第九夜のキーワードは「インプットをアウトプットに」です。学びを社会で実践すること。自分を知り、人とつながること。猫のマチコの言葉で言い換えると「喜べることを喜ばれることに」でしょうか。私の場合は「好きだから」をアウトプットしていくと何が起こるか、今年1年を楽しみにしたいと思います。
4月は「あなたが大切にしたいことはなんですか?」というテーマで、みなさんのオリジナルのキーワードを募集します。
ここまでの9つのキーワードについて、共感できるものもあれば、ピンとこないものもあったと思います。その心の反応の違いをよーく観察してみると、ひとりひとり独自のキーワードが浮かび上がってくるかもしれません。スパッとひとことだけでも、ゆっくり語ってくださってもうれしいです。自分の言葉で書いてみませんか。
おたよりというかたちのアウトプット、ぜひこちらから送ってください。楽しみにお待ちしています。
イラスト 内田 松里/文 古金谷 あゆみ