スタジオ・ヨギー物語Matoka, A Day in Nagoya
episode #04
その名は、森部真登香。真実に向かってまっすぐ登ると書いてマトカ。今日は名古屋の少女マトカのお話をしましょう。
「真面目」な「優等生」の「お嬢様」を想像しましたか? でも、マトカは子どもの頃からずっと、そうじゃない自分になりたかったのです。本が好きなんだねと言われれば本を読むのを止め、いい子だねと言われればやんちゃをしました。そんなマトカが初めて自分でレールを作ったのは、ヨガのインストラクターをめざしてヨギーに転職したときのことでした。寝耳に水の両親は大騒ぎ。でも、マトカは店長を続けながらインストラクターになり、二足の草鞋も自分なりのバランスで上手にはけるようになりました。なのに……
「マトカ先生」の名前がスケジュールから消えて数ヶ月が経っていました。フランチャイズだった名古屋のヨギーは直営になり、当時の方針によって店長とインストラクターが兼務できなくなっていたのです。
何のためにここにいるんだろう? でも、ヨギーのためには私が店長でいたほうがいいし、今辞めたらみんなに迷惑がかかる。迷惑がかかるとわかっていてそうするなんて、それは自分勝手っていうんじゃないのか?
「マトちゃん、ずーっと何見てるの?」
と同僚のあやちゃんの声で我に返り、
「スケジュール表見てたらなんか目が離せなくなったー」
マトカはいつものようにメゾソプラノであははと笑いました。そう、本当はマトカはメゾソプラノなのです。合唱団のパート分けの日に風邪をひいていて声が出ず、アルトになったのでした。あのときもちゃんと言えばよかったのかな。ふとマトカは思いました。
マトカは清水さんに話しました。夕方のスターバックスで泣きながら。
結果は「いいよ」。あまりにもあっさりしていたので、マトカの涙もひっこみました。誰かがメゾソプラノであははと笑いました。
これで名古屋の少女マトカのお話はおしまいです。なぜなら、もう少女マトカはいないからです。この日、マトカは少女ではなく、少女の心を持った大人になりました。
おしまい
文 古金谷 あゆみ/「スタジオ・ヨギーのある生活」vol.15より