出産後の女性と赤ちゃんが参加できる「産後リカバリーヨガ」のクラスでは、時々、その日の赤ちゃんたちの様子に従って、手遊び歌やベビーマッサージをして、赤ちゃんの機嫌を取ったり、赤ちゃんを感じる時間を作ります。泣いていた赤ちゃんも、お母さんの歌声が聞こえたり、お母さんの注意が自分に戻ってくるのがわかると安心し、泣き止みます。

しかし時折、手遊びやマッサージを拒否する赤ちゃんもいます。ですがお母さんは、せっかく習っている最中ですから、赤ちゃんにその手遊びやマッサージを施したいと必死に赤ちゃんを押さえつけてしまうことがあります。マッサージで最初に大事にしてほしいことは、目の前にいるこの子を“感じたい”“知りたい”という思いを、お母さん自身が持っているか、まず自覚し、認識してほしいということです。

私たち母親は、自分が思う“良いこと”をたくさん教えてあげたい、知ってほしいと、大人(の想い)を子どもに押し付けやすいですよね。でも、マッサージでは、まず手のひらで子どもの状態を感じ取ることを大事にします。

赤ちゃんにだって、触られたくないときはあります。お腹にガスが溜まっているときやお腹がゆるいときはそっとして置いてほしいかもしれない。今、自分で眠りに落ちそうなときは、いくら気持ちがいいマッサージだって、その眠りの質を妨げるかもしれない。だから、素直に今触らせてくれる子にだけ施します。

それは何で判断するかと言ったら、お母さんの感受性です。お母さんの感じる力、その子の情報を受信する力です。実はこの感受性、子育てのいろんな場面で抜け落ちやすいのです。

こんな例え話があります。
「船から乗客を海へと飛び込ませるときに効果的な一言」というお話です。
アメリカ人には、「ヒーローになれますよ」
ドイツ人には、「法律で決まっているんです」
イタリア人には、「女性にモテますよ」
日本人には、「みんなやっていることですから」

日本人は、協調性を大事にするあまり、標準的であることを何よりも良しとする傾向があります。協調性は、決して標準的であることではないと思うのですが、でも、やはり「みんなと同じ」であることはとても安心だし、「みんなと同じ」ことが出来るようにと教育しがちだと思います。

私もそうです。ずいぶん前のことですが、子どもが2~3歳くらいのときに、誰かがスイミングを始めたと聞けば、うちの子も習わせたほうがいいのではないか・・・とか、リトミックは小さいうちから?とか、4~5歳になればひらがなを読める子がちらほら出てきて、早い子だと2歳くらいから読めるんだって!と聞けば、興味もない我が子に必死でひらがなを見せてみたり・・・。今となっては笑ってしまうエピソードなのですが、そのときは大真面目に焦っていました。育児書どおりに、「みんなと同じ」ように進まない子育てに、右往左往していました。

でも、仕事柄、たくさんの赤ちゃんや子どもたちと出会ってきて、たくさんの凸凹した個性を見ました。我が子も独特なリズムを持った子だったので、その子を「みんなと同じ」に引き上げることで彼女自身が苦しそうな姿も間近で見てきました。反対に、みんなより抜きん出て色々なことが出来ちゃう子が、授業中に持て余したエネルギーを暴力的に爆発させるケースも見ました。

「みんなと同じ」標準的な発育のスピード。それに合わせることに苦しむ子がいる。「みんなと同じ」ことをするために、自分じゃなくなっていく子がいる。その子は、幸せかしら。
大人が思う“良いこと”を押し付けすぎて、この子が苦しんでいないかしら。この子の命は、魂は、何を感じているのかしら。

その子の特性に早くに気づいてあげられるのはお母さんです。

その第一歩だと思うのです、ベビーマッサージは。手のひらで、その子の今の状態を知ろうとする作業。その子の今をまるっと受け取る時間。マッサージを施すと赤ちゃんの表情はコロコロ変わります。表情が緩む瞬間もあれば、その刺激に目がキラキラと開いてくることもある。眉間にしわを寄せて面白そうに耐えていたり、本当に嫌がっていたり。言葉を持たない赤ちゃんは、実はたくさんお話しています。

「気持ちいいよ」「もっとやって」「今それはイヤだ」「お母さん、ありがとう」「大好きだよ」

体にも表情があります。まだまだ足の裏が絹のようにすべすべで柔らかい赤ちゃんだったのが、エネルギッシュな肌触りに変わってきたり、股関節の動き方に違いを感じたり、お腹の張りも、ガスが溜まっているお腹なのか、便秘なのか全く違います。

感じてみてください。その感じる力が、その子を育てるのではないかと思うのです。誰でもない、その子を育てるのだと思うのです。

ヨーガには、 “アートマン”=「真我」 という言葉があります。その文字通り、「 真 実の 我 」です。でも生きていると、その「 真我 」にはたくさんの「自分じゃないもの」がくっついてしまいます。それによって時々私たちは苦しみます。

自分という魂に、「~すべき自分」「~ねばならない自分」といった、たくさんの洋服や鎧を着せて、色眼鏡なんかで装飾し、本当の自分「 真我 」を忘れさせてしまっている。ヨーガはその「 真我 」に到達すべく色んな技法を用いて自己研鑽を図ります。またキッズヨガでは、まだ鎧や色眼鏡をかける前の、子どもたちをありのまま肯定し、その子自身の能力を発揮させていきます。

だから、おうちで出来るまず最初のコミュニケーションがベビーマッサージです。子どもを押さえつけてやることではありません。子どもをまるっと抱きしめる(受け止める)ことから始めます。その子に合ったマッサージを施すために、まずはその子を感じることです。

手のひらから伝わってくることを感じようとする、あなたの受信力を磨く作業でもあります。きっと、あなたの鎧もひとつ、手放せる作業になると思いますよ♪

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文 ヨガインストラクター ミヅホ/編集 七戸 綾子