私はボランティア活動の中で、助産師さんと保育士さんと一緒に産前産後のご夫婦&赤ちゃんと座談会をすることがあります。

生後3ヶ月くらいまでの新米パパ&ママさんと、妊娠期にあるプレママさん&プレパパさんと輪になって、産後の生活を垣間見ながら色んなことを話します。主な内容は助産師さんに体や育児の相談をする会なんですが、実は毎度出てくる話題が、夫からのこんな相談。

「どれくらい家事に協力してますか?」
「妻が何をしても許してくれません。」
「妻の不機嫌が理解できません。」

そして、その横では妻たちが、無表情に佇んでいます。夫の言葉を聴きながら、だんだん無表情になっていきます。毎回同じような事が起こります。

赤ちゃんはスキンシップを必要としています。でも実は産後の女性のほうが一番この触れ合いを必要としています。産後は女性ホルモンのバランスが著しく変化します。妊娠していた体と妊娠を終えた体、一緒なわけがありません。ホルモン分泌が変化すると、体も心も変化します。肌が荒れたり髪が抜けたり、イライラしたり頭痛が起こったり。

でもね。赤ちゃんにおっぱいあげたり、抱きしめたり触れ合ったりすることで、女性は自分の体の中から、その不安定を解消するためのお薬みたいなホルモンを自ら作り出すんです。オキシトシンといいます。愛情を育んだり、体や脳を緩めたり、安心したり、信頼したりできる、魔法のようなホルモンです。

一番の重労働のような気がする赤ちゃんの抱っこや授乳は、女性にとってはとても大切なものかもしれません。ゆっくりと心を込めて赤ちゃんとのスキンシップを計ってもらいたいです。スマホなんかに心を預けていませんか?

男性はきっと、女性は出産をしたらますます女性らしく女神様のように微笑んで育児を始めていくだろうと思い描いているだろうと思います。

以前、子宮と女性の体について学んだ講座で、こんなことを教えてもらいました。
妊娠中、10ヶ月お腹の中で育てた、まるで自分の命のかけらのような赤ちゃんが出産して外に出てきてしまうと、女性はとても不安になるんだと。一心同体で身ごもっていた妊娠期とは違って、赤ちゃんが外に出てくると、その命のかけらを守るために、周囲に対して防衛本能が働き、「敵か見方か」という脳になるんだそうなんです。

一番身近な旦那さんや、自分のお母さんに対してでもこの本能が働いてしまうため、「あなたは何の役に立ってくれるの!?」と無意識に敵対視してしまうのかもしれないと言うんです。

私はこの話を聞いたとき、深く納得し、女性はそうやって命がけで守ろうとする生き物なんだな~なんて素晴らしいんだろうと大感動しました。

そういえば、私が次女を出産した助産院の先生は、真夏だったにも関わらず、産後の私のお腹周りをタオルや毛布を何重にも包みながら、
「子宮が寂しがるから。子宮が寂しがるから。」
と言っていたのを思い出します。そして、お産婆さんというのはそうやって、産後の女性の体を第一にケアすることこそが仕事なんだと言います。

こんな理屈を知っていたら、産後の女性の変化に男性側からも寄り添えるかもしれないし、寄り添い方が変わるのではないかと思うんですよね。

男性側は、少しでも家事分担をするのがいいんだろうと単純に、そして純粋に思ってくれていると思うのです。でも、女性はもちろんそれは助かるんだけど、一番求めているのはそこではないのかもしれません。

一度その座談会の中で、妻から夫へ一番してほしいことを考えてみようか!と提案したことがありました。

ゴミ出し?掃除?買い物?料理?洗濯?

あるママさんが、
「時々嬉しいなと思うことがあるんですが、・・・僕たちの赤ちゃんを今日も守ってくれてありがとうって言ってもらえたときは、全部まるっと許せちゃいます。」
と言いました。そこにいた女性たちがいっせいに緩んだ空気を感じました。

産後の女性の体の仕組みを知っていても、なかなか自分じゃ感情までコントロールするのは難しいです。 もちろん、産後のそれは永遠に続くものではありません。止まらない時間の中で私たちは命を生き、経験していきます。学んで成長していきます。お母さんに、お父さんになっていきます。「敵か見方か」と必死で周囲を警戒しながら、自分や身近な人を傷つけたりもして心も体もボロボロになるくらいの時期を過ごします。でもだからこそ、もっとも大切なときを過ごしているんだと思うのです。

さぁ、ここからはヨガの知恵です。
感情をコントロールするのはとても難しいです。でも、自分の中で起こっている目に見えないことのせいにしてそこにあぐらをかくのも違います。

自分を見つめることを、大切に扱うことを知っている人は強いと思います。私はヨガしていて本当によかったな~と思うのはその点です。
「今、イラついている」
「今、怒っちゃいそう」
「今、ケンカしたくない。ちょっとだけ優しくしてほしい」
「ひとりになれば、冷静になれるかも・・・」
そう思っていることを自覚できるようになったから。もちろん、出来ないときもたくさんありました。

ヨガ哲学では、成功と失敗とを平等のものと扱いなさいと言います。成功体験が与えてくれるもの、成功体験だけでは感じ得ない失敗から学ぶこと。どちらも自分にとって必要なことだから。

自分をコントロールできずに笑えない自分も、怒っちゃった自分も、怒らせちゃった自分も、泣いちゃった自分も、大切な経験。平気な顔してやり過ごさなくても、大丈夫。その自分に気づいてあげましょう。そして、今の感情・感覚を知れたら、その感情に執着しないで。

「今怒ってる!」「この怒りを伝えなきゃ!」「気づいてよ!!」ってしがみつかないで。
「今、怒ってるんだな~」ただそれだけのこととして見る「鍛錬」が必要です。
「執着しない」(ヴァイラーギャ)。これもヨガの教えです。時間は刻々と流れています。感情にしがみついているとまた苦しいです。でも、無視しない。無視すると色んな場面でその感情が湧いて出てくるから。でも、その感情にこだわらない。

ふふふ、難しいですよね。でも、大切なこと。

「これでいいのだ」

ヨガの学校で教えてもらった面白い魔法です。
今の自分を否定せず、執着せず、無視しないけどこだわらないための魔法の言葉。
成功も失敗も平等のものとして見なす、不思議な言葉。

「これでいいのだ」

感情に振り回されそうになったら心の中でつぶやいてみてください。
得体の知れない力をくれる不思議な言葉に聞こえませんか?

あなたの今は、必要な経験です。
いつも、一番大切な時を過ごしています。
止まらない時間の中で、今を大切に生きていてくださいね。

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文 ヨガインストラクター ミヅホ/編集 七戸 綾子