台湾通の友人のお誘いに乗って、今回の旅のメインイベントは、台湾原住民族の村「不老部落」を訪ねること。台北から電車に乗って1時間半、宜蘭(ぎらん)県・羅東(らとう)駅が最寄となる。”台湾原住民””自給自足の生活”と事前に聞いて想像していたよりも遥かに洗練されたライフスタイルとおもてなしを満喫することとなりました。

台湾を訪れると、新旧にわたって日本との関わりをいたる所で感じることになります。台北の町中には、キティちゃんやLINEのキャラクターがあふれ、台北から離れた山村も、日本が統治していた時代があります。悔恨が残ってもおかしくないような歴史的な背景があるにもかかわらず、台湾で出会ったみなさんは穏やかで、とても優しい。

羅東駅から歩いて10分とかからないところに、歴史を学べる広大な公園、羅東林業文化園區(羅東林場)がありました。羅東はその昔、日本向けに太平山の檜を切り出して輸出する林業の街だったそうです。

広大な土地には、山から丸太を運搬する専用機関車の駅があり、丸太を貯蔵しておく貯木池が広がり、積み上げられたまま朽ちている檜の大木がそのまま置かれていました。宿舎として使われていた日本式木造家屋が整然と並んでいたり、林業で栄えていた頃の太平山の暮らしぶりを、写真や立体的に再現した展示施設や、近隣の山林やがありました。とても詳しい説明をしてくれるスタッフは、なんとみなさんボランティアだそうで。公園自体も無料ですし、展示施設も無料。クオリティの高さに申し訳ない気持ちになります。

この日は、田んぼの中にある民宿に泊まり、町に宜蘭料理を食べに出かけました。宜蘭料理では、珍しい煮こごりのから揚げがあり、”龍のひげ”という歯ごたえのしっかりした山菜を愉しみました。台湾というと、”夜市”があちこちであります。宜蘭にも大きな夜市があり、食事のあとに繰り出しました。あまりの混雑ぶりに、何食べよう!、という気持ちも萎え、スイカジュースを飲んだだけにとどまりました。”豆花”(トーファ)を食べよう!ということになって、人混みを抜け、お店に行きました。あったかいのと冷たいのと散々悩んで、冷たいほうの”豆花”を食べました。緑豆、小豆、ハトムギなどのトッピングも3種類まで選べて、満腹のあとにもするすると食べれちゃいました。お店の中で食べている間も、次々とお客さんが買いにきていました。

翌朝、タクシーで10時ごろ、待ち合わせの村の入り口にある集会所まで向かいました。そこから歩いて長い吊り橋を渡ります。この柄は、魔除けだそうです。けっこう揺れるので、そわそわしながら歩きました。驚いたのは、吊り橋の上を、スクーターで渡っている人がいたこと。橋を渡りきると、ジープで迎えに来てくれて、数台に分かれて複数のグループで乗り合わせました。ものすごい鋭角な曲がりくねった坂道をまるで遊園地のアトラクションのように勢いよく登っていきます。途中、車を降り、歩きながらのツアーがはじまりました。重いものは入れていいよ、とガイドする少年が背負い籠を差し出します。遠慮なく手荷物を入れさせてもらいました。道の脇に数メートルごとにたわんだ枝があります。そこには竹やひもで作ったシンプルな仕掛けがありました。踏んでしまうと、動物は、足を取られ、自らの体が逆さ吊りになってしまうからくりです。

「不老部落」の民族、タイヤル族の伝統的なスタイルでは、裸の上に部族の織物を着ていたそうですが、ここは現代風にジーパン、Tシャツの上に、伝統の織物をまとっています。

しばらく歩いていくと、いよいよ村が近付いてきました。まだ姿が見えないうちから、伝統の挨拶、「ローカースー!」と元気よく言ってから、敷地に入っていくのが礼儀だと教わり、みんなで何度も「ローカースー!」と大きな声をあげながら山道を登っていきました。村からも「ローカースー!」と声が返ってきて、歓迎されていることがわかります。

村に着くと、急に視界が開けました。

囲炉裏が準備されている小屋に通され、お茶をいただいたあと、ウェルカム焼き肉が始まりました。麹に数日漬けてあった猪肉を各々で炭火焼きにします。焼けたかどうかをみてくれて、OKが出ると、自家製の粟でつくった黄色いお酒とともにいただきます。麹で漬けてあったお肉はとてもやわらかく、しっかりと味がして、とても美味しかったです。

その後、このツアーを取りまとめているKwali(クワリ)さんが、オリエンテーションを始めます。不老部落の成り立ちや、村独自の建物、野菜、暮らしなどについて説明してくれました。台風で、建物が飛ばされたこともあって、屋根の角度や向きを工夫して、今のかたちになったそうです。上の写真でクワリさんが手に持っているのは、この地域で取れる生姜だそうです。ものすごく大きいですよね! 地元でもともとある野菜はよく育つそうで、そこにない外来の野菜を育ててもうまく育たないそうです。約10年前、クワリさんのご両親と数家族で始めた不老部族の村づくりとツアーは、いろんな試行錯誤の上、現在のかたちになったそうです。

オリエンテーションのあと、2チームに分かれて村のツアーに出かけました。タイヤル族の男性は、イケメン揃いで話上手。冗談交じりに軽快なトークなので、ツアー客は笑いが絶えません。野菜畑で桑の実を採らせてもらったり、燻製小屋では魚が燻製されているのを見せてもらったり、途中、オレンジやパイナップルなど、美しく盛られたフルーツを食べさせてくれました。

伝統的な仕事として、女性たちは織物を、男性は狩のできない日には木彫りをしていたそうです。その昔の原住民族の様子は、映画「セデック・バレ」で描かれていますが、男たちは獲物を捕ったり首狩りをした勇敢な印として、女たちは機織りの技術を一人前の証として、顔に入れ墨をしていたそうです。

この不老部落を始めたご夫婦(クワリさんのご両親)は、だんなさんが漢人で、奥様がタイヤル族出身だそうです。まるでリゾートのようなおしゃれな家は、ランドスケープデザインを手掛けるご主人、潘さんの設計。

見応えのあるツアーから戻ると、いよいよ食事でした。料理はコースのように運ばれ、それに合わせてお酒も変えて出してくれました。全て粟酒なのですが、いろんな種類がありました。最初は、スパークリングの粟酒。微発砲でとっても美味しかったです。原料の粟が飾ってありました。

つまみは茹でピーナッツ。前菜は、朝摘み過貓(山菜の一種)のお浸しや、エスカルゴの刺蔥(バジルみたいなハーブ)と生姜巻き、蜜漬けミニトマト金木犀添え。

その後、燻製の魚に粟のちまき。日本酒にインスパイヤーされたという、粟酒の上澄みのお酒を添えて。

スタッフがお酌をしながら各テーブルをまわっていきます。それも何度も何度も!
これでうっかり飲み過ぎてしまうようです。

野菜の盛り合わせ、肉、煮物、デザートと全10種類の料理が続きました。お肉は予約の時点で豚か、鳥か、を聞かれていました。どちらも炭火でじっくり焼いてあり、ボリューム満点でした。

伝統の踊りを教わったり、唄ったり、ゲームをしたり、弓矢を体験させてくれたりと、料理が出てくる合間も様々楽しませてくれます。二人で同じ杯からお酒をぐいっと飲むのですが、これがまた、回るのです。そしてテーブルに戻り、お酌がえんえんと続き、食べ終わると、夕方4時になっていました。

ディスプレイも素敵でした。村に咲く花をアレンジメントにしていたり、竹のろうそくだったり、伝統の織物を配置して。水洗の清潔なトイレには、ゴージャスにも本物の百合が飾ってあり、香り高く、ぜいたくな気持ちになりました。

宿に戻ってひと眠り。夢だったのかな? と幸福感に包まれて目が覚め、お土産にもらった月桃の葉でくるんだお団子を見て、本当に行ってきたんだ、と思いました。

出かける前は、”原住民族の村”や”自給自足の生活”と聞いていたので、土の上に座ったり、グロテスクなご飯を食べるのかと覚悟していましたが(!)、全くそんなことはなく、ツアーの流れも食事の内容も、おもてなしも全て洗練された、至れり尽くせりの、とっても充実した体験でした。不老部落は、”原住民族”のライフスタイルテーマパーク。れっきとしたエンターテイメントでした。

写真&文 七戸 綾子