海外からの観光客が、日本に来てもっとも感動することは何だと思いますか? サクラ、フジサン、オモテナシ……。いろいろとありますが、その一つが“水”のおいしさだそうです。確かに水道の蛇口から出てくる水をおいしく飲める国は世界でも珍しいのでは?

 さて、そんな日本でも一二を争う水に恵まれているのが、「水の王国」と呼ばれている富山県です。中でも、有名なのが北アルプスの麓の町、上市(かみいち)。古来より、不思議なパワーを持つ水が湧き出ると評判を聞いた人々が、霊水に導かれてやってきます。

 上市を訪れて、まず目につくのが、青空にそびえる剱岳(つるぎだけ)です。日本でもっとも登頂が難しいと言われている通り、標高2999メートルに達する高峰は鋭い刃物のよう。この神々しい堂々とした姿からか、山岳信仰の対象として崇められてきました。昔から、多くの修験僧が上市に集まってきたのですが、その目的の一つが、“水”でした。

 剱岳に代表される立山連峰は3千メートル級の山々が連なり、夏でも頂に残る万年雪が長い長い時間をかけてとけ出すのです(ちなみに剱岳には日本で初めて認定された氷河が二つあります)。さらに富山県は、本州でもっとも原生林の面積の比率が大きい緑豊かな土地。この森林が天然のフィルターとなって、雨水を浄化して地中へ清浄な水を蓄えるのです。剱岳のお膝元にある上市は、清水が湧き出るのにかっこうのロケーション。その水は霊験あらたかとされ、沐浴や滝行に用いられたり、さまざまな病に効能があると信じられてきました。

 「行者穴」と呼ばれる洞窟の奥から湧き出る穴の谷(あなんたん)の霊水は、昭和60年に環境省選定の全国名水百選に選ばれた唯一の霊水です。さらには、胃腸にいいと言われている城山(じょうやま)の湧水、目に効能がある大岩山日石寺(おおいわやまにっせきじ)の藤水(ふじみず)、弘法大師がが錫杖でついて湧き出させたという護摩堂(ごまどう)にある弘法大師の清水など、まるで霊水のデパートのよう。毎日、自分好みの霊水を求めて、水をくみにくる人々でにぎわっています。

 上市を訪れたら、ぜひチャレンジしてほしいのが、滝行です。大岩山日石寺は、725年に行基が開いた真言密宗の大本山。山岳信仰の聖地として、多くの修行者がこの寺にある六本滝で厳しい修行に励んできました。そんなに大変なことは、私には……。いやいや大丈夫。女性に人気の修行の滝として最近、来訪者が増えています。また阿字観という瞑想、写仏を体験できるプログラムも。さらには近くの清流で森林浴をしながらヨガをするツアーも開催されているので、参加してみるのはいかがでしょうか。季節によって、さまざまなリトリートツアーが楽しめるのが、上市の魅力です。

 さて、心身ともにリフレッシュしたら、今夜の宿は? おすすめしたいのは、護摩堂にある和風オーベルジュ八十八(やとはち)。宿で使用している水は料理からお風呂にいたるまで、すべて霊水。「専門家の方がお泊まりになったのですが、水質のすばらしさに驚いていました。何やら通常ではありえない成分が入っているらしいですよ」とは、宿のご主人の話。長年、肩こりに悩まされていたらしいですが、霊水のお風呂に入るようになって、すっかりよくなったとか。ちなみに、料理はご主人と奥さんが採ってきた山菜などの摘草が中心と、山の恵みを堪能できます。

 3月14日には北陸新幹線が開業して、東京からのアクセスもぐんと便利になります。この春の旅の計画に加えてみたらどうでしょうか?

写真 ペロ、澤井俊哉/文 美濃部 孝