果物に「銘」を付けて遊ぶ
vol.29
食べ物と言ってしまったが、やはり季節の移ろいを感じられる果物がおすすめ。時に、その形や色にハッとさせられ、自然にはかなわないなと思う。それに、すでに腐敗に向かっていくしかない刹那的なところもいい。
わたしはこの洋梨に「砂嵐」と名付けてみた。銘はあだ名のようなものだから、気軽な気持ちで付ける。ちなみに家人に問えば「ぶつぶつ緑」と返ってきた(これはさすがに即却下)。インターネットの検索で、「銘 茶杓」などと入力すればいくつかの銘一覧のサイトが見られる。茶杓にも銘を付けるというずいぶん面白い世界があって、銘を付けるのに参考になる。
ちょっとマニアックな話になってしまうが、骨董の目利き、青山二郎は「白釉黒花梅瓶」という壺に、「これさえあれば家を売って電話ボックスの中で暮らしてもいい」と「自動電話函」という銘を付けたそうだ。ここまで自由な発想が出来れば楽しいだろうと思う。
こうして果物に銘を付けて楽しんで、うやうやしく数日箪笥の上にでも置いて、完全に熟れたところを頂く。
写真&文 中村 宏子