体のことを知り、大切にすると内側から輝き出す
山田 バンキー療法は、東洋医学に基づいた療法なのですが、大きな目的のひとつが、滞った血流を促し、瘀血(おけつ。体に不要なガスや老廃物などが含まれる、古くなったドロドロの血液)を解消すること。東洋医学では、肩のコリ、腰痛、目の疲れ、頭痛、冷え症、生理痛など、さまざまな不調の原因は瘀血にあると考えられています。
――実際にどのような施療をするのですか?
山田 ガラスのカップを、東洋医学の経絡(気血が流れる道)上にある経穴(ツボ)にあてて、専用の機器でカップ内を真空状態にし、皮膚に吸着させます。そうすることで、毛細血管が拡がって血液の巡りがよくなり、瘀血の浄化を促します。 また、カップをつけた後の皮膚の色素反応の違いを見て、体全体の健康状態を目で見て知ることもできます。健康ならピンク色になってすぐにカップの跡が消えますが、紫や赤黒い色の色素反応が出た場合は、そのツボに対応する内臓の働きが衰えている可能性があります。また、頭部にカップを着けることもできるので、頭痛や目の疲労などの解消にも役立ちます。
――体の不調のほかに、心の状態も表われるのですか?
山田 東洋医学では、心配性の人は胃腸や心臓に負担がかかり、怒りっぽくイライラしやすい人は肝臓に不調を起こすなどと言われていますが、実際に施療を通して内臓の調子がよくなり、体が楽になってくると、気持ちも安定する患者さんが多いです。その気持ちの変化は表情を見ても分かるのですが、最初は体がつらく暗い表情をしていた人が、だんだんと顔色がよくなり、やさしく明るい笑顔を取り戻していかれるのを見ると、心からうれしく感じます。心と体は深くつながっていて、自分の不調がどこにあるのかを知り、そこを癒していくと、だんだんと思考も健全になっていくように思います。
健康である喜びをたくさんの人に伝えたい
山田 幼稚園教諭をしていた20代前半のときのことです。ひどい腰痛で、痛みがひどくなるたびに病院で注射を打っていたのですが、ある日激痛で動けなくなってしまいました。いつもは注射で痛みが治るのに、今回は注射を打っても痛みがさらにひどくなり、一体自分の体はどうなったのだろうか? と不安になり、医師にたずねると、それは痛みの原因を治すのではなく、痛みを麻痺させる注射だということが分かったのです。手術をすすめられましたが、車椅子の生活になる可能性もあると言われ、他の方法を探していたところ、バンキー療法に出会いました。半信半疑でしたが、施療後に痛みがスッと消えて、3ヵ月間歩行困難だったのが普通に歩けるようになったのです。体を動かせる喜びを改めて実感できました。
――それがきっかけでバンキー療法を学ぼうと思ったのですか?
山田 学ぼうと思ったのは、末期ガンの母を看病していたときのことです。どこの病院でも余命2カ月という宣告を受け、さらに難治性の皮膚病も発症してしまい、とても苦しんでいた母をどうにか楽にしてあげたい、と悩んでいたところ、自分の腰を癒してくれたバンキー療法を思い出しました。試したら不思議なくらい肌の状態が改善して、母自身ガンであることを忘れてしまうくらい、体調がよくなりました。おかげさまで最期まであまり苦しむことなく、その後2年間、楽しく人生を全うできたのです。その中で、母や自分が受けた恩恵を多くの人に伝えたいという気持ちが強くなり、本格的に学ぶことにしました。
――学び始めて、ご自身が変化したことはありますか?
山田 当たり前のようですが、自分の体について知ろうと思うようになりました。それまでは、病気を治すのは医師に任せっきりでしたが、血液が元気だと自分も元気になれるということに気づいてからは、体に意識が向くようになり、健康であるためには何が大切なのか、何を変えなければならないのかという、体の声が聞こえてくるようになりました。
――日々生きていく中で、大切にしていることを教えてください。
山田 すべてのものに心から感謝をすること。そうすると、自分の心身が緩み、素直になるのを感じます。そういえば、長い間ベランダに放置して、枯れかけていたシクラメンの鉢があったのですが、声をかけながらお手入れをしていたら、少しずつ元気になり、驚くことに今ではたくさんの花を咲かせてくれるようになりました。華やかに咲くシクラメンの花を見るたびに、生きているもの、命あるものは、誠意を尽くすことで必ず応えてくれるのだ、ということを感じます。それは人間も同じことで、自分の体に愛情を向けながら、不調の原因を謙虚に受け止め、心身ともに前向きに変わっていこうという気持ちを持てば、心も体も元気に輝いてくるはずです。
写真 野頭 尚子 / 文 小口 梨乃