――15歳でクライミングを始めたそうですが、そのきっかけを教えてください。
平山 もともと山登りが好きで、難度の高い山を登るには、雪や氷などに対処するためのクライミングの技術が必要だと思っていました。そんなとき、たまたま入った登山道具のショップに、フリークライミングの第一人者である檜谷清さんがいらっしゃって、「なんか君、クライミングやりたそうだね」って声をかけてくれたんです。そしてその翌週に、埼玉県にある日和田山に連れていってもらって、初めてクライミングをしました。

――初めてのクライミングはどのように感じましたか?
平山 「これ、一生飽きないな」と直感して、あっという間にクライミングの虜になりましたね。日和田山という小さな岩場でさえも、ルートによって表情や登り方が違いますから、無数にある世界の岩場をずっと追いかけていったら、すごく楽しいんだろうな、と思いました。この感覚は、今でも鮮やかに自分の中に残っています。

――30年以上も現役を続けていらっしゃいますが、クライミングのおもしろさは何でしょうか。
平山 登山にはエベレストという頂点がありますが、クライミングの可能性は未知数で、人間が登った岩場は、まだほんのひと握りなんです。到達点がまだ見えないというのが、モチベーションにもつながり、長い間クライミングを続けている今でも、まだ扉は無限に開かれていると感じますね。また、土地ごとに違うクライミングスタイルを味わうことで、自分のクライミングの幅がどんどん広がっていくのも実感できます。以前は登れなかった岩場も、経験を重ねていくと、技術や感覚が磨かれて登れるようになることもあり、自分が進化しているという感覚をいつまでも得られるのも、クライミングの魅力ですね。

――これからも登り続けますか?
平山 そうですね。クライミングは自分の柱になっている存在で、登っていないと自分の根底の部分がなくなってしまいますから。

家族や自分の成長に幸せを感じて

――平山さんが日々生きる上で大切にしていることを教えてください。
平山 20代後半くらいまでは、大きな記録を出すということに重点を置いていて、失敗するとすごく落ち込んでいました。でもある程度経験を積んだとき、一生懸命やっても失敗することはあるし、失敗したとしても次につなげればいい、と思えるようになりました。上手くいかなくても、そのなかに気づきはたくさんありますし、それに気づいていけることが成長するということなのだと思います。そして、そのように成長していくことが、最終的に自分の幸せにつながるのではないでしょうか。

――最近感動したことはありますか?
平山 じつは毎日いろいろ感動しているのですが(笑)、やはり子どもの成長を感じられるときでしょうか。17歳の息子と15歳の娘がいるのですが、娘はプロのダンサーを目指していて、これまでさまざなまジャンルのダンスを学んできました。その集大成ともいえる発表会を先日観に行ったのですが、彼女が踊った12分間に、よいことも悪いことも含めて、これまでの15年間が集約されていたんですね。昔、家の中二階から顔をのぞかせて、「パパ、見て!」と言ったときの表情などが、走馬灯のように思い浮かびました。手の表現ひとつにも、時間をかけて練習したんだなというのが伝わり、目指しているものに本人が近づいているのが分かりましたし、とても輝いて見えました。僕は17歳でアメリカに渡ったのですが、娘はもっと早く海外に出たいようです。僕以上に活躍したいという思いがあるようで、ライバルとして見てくれているというのも、うれしいですね。

写真 幸田 森/文 小口 梨乃