何かとつながる

 幸せとは何でしょうか?
 僕は今、軽井沢に新しいコンセプトの学校をつくっています。この学校をつくるというのは、結局子どもたちが幸せになってもらうのが一番の目的なので、何が幸せかを常に考えるようになりました。
 幸せにもいろいろな要素があるとは思いますが、今のところ、次の3つが特に大事だと思っています。
 まず第一はつながり。つまり、何かとつながるということです。それは自分の家族でもいいですし、会社やコミュニティでもいいでしょう。あるいは自然や宇宙など、もっと大きなものであればさらに幸せなのかもしれません。ダライラマのように宇宙など大いなるものとつながっているような人はとても幸せなんだろうと思います。つながりがあるだけで、人は幸せになれる。どこにもつながりが感じられない人は、物質的に裕福であり他の要素ががすべて満たされても幸せではありません。ビジネスで大成功を収めても孤独に死んでいく実業家は少なくないですし、決して幸せだとは思えません。

少しでも成長する

 二つ目が成長だと思います。どんなに少しずつでもいいから、少しでも前よりも自分自身が成長していると実感できるということが幸せだと思います。上り坂でさえあれば角度はそんなに急でなくてもいいのです。為末大さんがオリンピック選手のセカンドキャリアをどうやって作ったらいいか、色々活動されています。お話を伺っていて、オリンピック選手やおそらく野球選手もそうでしょうが、引退した後、彼らや彼女の一部がなんとなく不幸だなと思ってしまいがちなのは、ピークが若い時にあるからなんだと思います。社会的なステータスも含め、過去の絶頂期から下り坂にいるような気がしてしまう。絶対値でどのレベルにあるかではなく、若い時のピークより今が下にあるということに対して不幸だと感じてしまうんです。
 それに対して、職人などは、経験を重ねていけばいくほど少し少しずつ成長をしていく。ですから、頑固な鮨職人なんかは、生涯自分の納得いく鮨だけを追求して握っていて、ある意味一生上り坂にいる訳ですから、とても幸せなんだと思います。年をとりながらでも日々経験を積んで少しずつでも成長していけるって素晴らしいことですよね。その意味ではビル・ゲイツなんかはとても賢いと思います。もし彼がマイクロソフトの経営をずっと続けていたら、彼をもってしても恐らく、アップルには負けていたでしょう。そうするとビル・ゲイツの幸福感はぐんと下がったんじゃないかと思います。ところが、会長を退いて、奥さんと慈善基金団体であるビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立した。彼はそこで新たに成長をする舞台を得たわけですから、すごく幸せだと思います。
同じように先ほどお話したオリンピック選手も何かで登り坂にいると思える違った舞台を見つけるのがいいのではないかと思います。人は自分が何かで成長していくことに幸せを感じるんだと思います。

自分を表現する

 三つ目ですが、自分を自由に思いっ切り表現することだと思います。日本の多くの会社員の方は組織のしがらみでなかなか自分を表現することは簡単ではありません。自分をそのまま表現できることが一番幸せなんです。煩悩から解放されるというのもある意味同じことだと思います。西洋人の中には自分を主張しているように見えて、現代資本主義での基準に合わせて自分をアピールしようとしていて、本当の意味では自分を表現できていない人も多く見受けられます。ですから、そのような西洋人はいろんな煩悩から自由になることで幸せを感じることができるのです。
 しかし本質は東洋人でも西洋人でも同じで、ありのままの自分を自由に表現できるかどうかだと思います。リーダーに合っているのならリーダーでもいい。フォロワーが合っているならフォロワーでもいいと思います。トップになる必要は全然ありません。しかし、今の現代資本主義の世界ではそこが勘違いされている気がします。男性でも女性でも多くの人たちが社会的に偉い人になったりお金持ちになることが成功だと勘違いしています。それがその人が本当にやりたいことだったらいいんですが。自分が一番やりたいことがいい旦那さんやいい奥さんになりたいのであれば、それを実現させることが一番幸せなのです。
 最近LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの略)の人たちの活動を応援してるんですが、彼らの多くは子どもの頃からずっと自分を表現することができなかったつらい経験をもっています。それが今、カミングアウトしてみんなでLGBTの活動を通じて仲間と一緒に自分を自由に思いっきり表現している。更に、仲間と一緒に自分たちが心地好い社会を自らの手で創ろうとしている彼らはとても幸せに生きているように思えます。もちろんその裏側でカミングアウトできずにとても苦しんでいる人がたくさんいることを忘れてはいけないんですが。 
 ありのままの自分を見つめて、それを自由に思いきり表現することこそが、幸せに繋がるのではないでしょうか。

語り 谷家 衛 /イラスト 山﨑 美帆 /構成 サンオープロダクションズ