聖夜を前に、雪夜たたずむうつくしいツリーの写真が、森の彼から届いた。幹や枝に雪塊をくっつけたスノーツリーは、アート作品みたいにキマッている。
ひとりで持てるだけの荷物と食料をかかえ、お気に入りの森の場所で寝起きをくりかえし、1週間でも2週間でも、できるかぎり長い時間を過ごすのが、彼の森スタイルだ。森に在りながら、四季それぞれ歩けばみちみち出会うすてきな表情。とりわけすべてが真っ白な雪で覆われる冬の森は、いかにも「ふしぎ」がおこりそうな舞台だという。
雪、月灯り、凍った樹……幾重もの時間が溶けあった森で、「うれしくって歩きまわった」寒くてあたたかな夜のことを教えてくれた。

――それは数日間吹き荒れた吹雪がやんで、ひさしぶりに太陽をみることができた日。荒れ狂う吹雪のなか、息をつめるようなテント生活をしていたこともあって、気温は氷点下だけど、からだに降りそそぐ陽光が心地よくてならなかった。
やがて陽が沈むと、蒼の世界が広がり、空を見あげると、いつのまにか上弦をすこし過ぎた月が存在を際立たせていた。冷えこんではいるものの、風がなく、キンッとしまった空気のあまりにも静かでおだやかな気配に、なんともいえず心がうきたってくる。
こんなすてきな月夜は、どうしたって歩かずにはいられなくなるんだ。寝るのをやめてテントを出て、夜の雪原をあてもなく歩いていると、雪塊をくっつけた樹々たちに出会った。海が近いこの森の尾根は、大陸からの季節風が吹きつける場所だ。海をわたった風の水蒸気が凍りついて、樹々たちを個性豊かに飾ったものだろう。
月の灯りがある雪の森は、おどろくほど明るさに満ちている。月の光があったかいはずないのに、影に入るとなんだか寒い感じがして、大急ぎで光のあたっているところへ行きたくなる自分に笑ってしまった。樹々の影と自分の影が、雪面にやわらかい影をうつしている。月の灯りが、ボクと樹を分け隔てなく扱ってくれていることがうれしかった。――


陰りに隠された自然の襞のふくよかさは、自分の目をこらしてみつけるもの。まずは頭のなかのテントを出よう。

写真 細川 剛  / 文 おおいしれいこ