主婦歴13年だというのに料理に開眼したのがここ2、3年という私ですが、圧力鍋はずいぶん前から持っている。玄米を炊くために購入したものだったが、子どもが生まれてからは白米を食べる機会が増え、それなら圧力鍋を出すまでもなかろうとご飯はもっぱら厚手の鍋で炊くようになった。

鍋で炊飯するには火加減の調整が必要となる。といっても一度きりのことなので普通は難なくできるのだろうが、うかつなわたしは2回に一度は吹きこぼしてしまい、ガスレンジの掃除というトホホなおまけがついてくる。それでも普段使いの鍋でご飯が炊けてしまうというシンプルさが気に入っていたこと、加えて、鍋でご飯を炊くなんてなんだかイケてるではないかという気分の良さもあり、思いのほか長く続いていた。

そんなある日のこと。昼の料理番組で、ある割烹の板前さんが美味しさを追求した結果、「白米は圧力鍋で3分」に行き着いたと話していた。これは圧力がかかってからの加熱が3分ということ。思い立ったらすぐ食べたい自分にはモッテコイである。火加減を調整するタイミングも圧力鍋ならシュンシュンという音が知らせてくれる。その晩さっそく試してみたら、炊き上がりがもっちりしていて鍋で炊くより断然、好み。

その手軽さと美味しさにすっかりはまり、「たった3分やで、3分!」と得意になって触れ回っていたところ、筑波山の麓で無農薬米を作っている「お米農家 やまざき」さんのおすすめがナント「圧力鍋で1分」というではないか。

炊き方をざっくり説明すると、白米の場合は米を洗ってザルにあげ、水(米カップ1に対して200cc)と合わせて蓋をして強めの中火にかける(浸水はしない)。しばらくして圧力がかかったら弱火にして1分。火からおろして5~10分蒸らすというものだ。うちの圧力鍋の場合なら、米(2合)をとぐところから茶碗によそうまでがおよそ20分。
(*詳しい炊き方は、お米農家やまざきさんのウェブサイトにある「おいしい食べ方」参照)

1分だとさすがに芯が残るんじゃないか、水分の多い新米ならまだしも古米の場合は厳しいのでは? なんていう素人の懸念も何のその、米の味と歯応えがしっかり感じられて本当に美味しい。もちろん好みによるものの、ちょうど遊びに来ていた友人夫婦は好きな感じだったのか、おかずにはノーコメントだったがご飯は絶賛していた。普段は味のついていない白米に興味を示さない娘も、この炊き方をするとひたすら米を食べている。

さすがは米農家さん~! と唸っていたらレシピ担当の奥さま、山崎瑞弥さんに話をうかがう機会があった。無類の道具好きということもあり、こと炊飯に関しては実にさまざまな鍋や炊き方を試してきたという山崎家。自分たちの作るお米(こしひかり系)には圧力鍋が合っていること、そして、育児に手のかかる慌ただしい日々にあっても手間なく炊き立てのご飯が食べられることから、今の方法に落ち着いたそう。日本人の米離れがいわれて久しい今、「簡単で美味しいならそれが一番。もっと気軽にご飯を炊いて、炊き立ての美味しさを実感してほしい」との想いもあるそうだ。

今年は畑を借りている農園や取材先で、農薬に頼らない米作りを間近に見る機会があった。気の遠くなるような夏場の草取りなど、あれだけの手間を思うと米の一粒一粒が拝みたくなるほどありがたく映る。思えば明治生まれの祖母は、おひつに付いた数粒の米も水でふやかしてさらえていたし、仏壇から下げた“ご飯さん”も表面が乾ききっているものをそれは大事に食べていた。そんなことを考えながら、自分の底知れぬ食欲と向き合っている秋のはじまり。

写真&文 松田 可奈