心をこめて食事をととのえ、食事から想いを受け取る
私がアーユルヴェーダを師事したクリシュナ・U・K先生は、子どもの頃、朝目覚めるとお母さんのマントラが聞こえてきたそうです。お母さんはマントラを唱えながら、いろいろなものに感謝しながら、朝食の支度をされていたんですね。そのお話を聞いただけで、落ち着いた平和な朝食が目に浮かびます。家族の体調に合わせて味や食感を調えたり、もてなす相手の好きなものを用意したり、思いやりにあふれた食事は本当においしく感じられるし、記憶に残ります。私たちは食事で栄養だけを摂取しているわけではなく、自分のために手をかけてくれた時間や想いも一緒に受け取っています。そうした目に見えないものが力になるんですよね。だからこそ、アーユルヴェーダでは食事は満足することが大事だと教えています。
私たち人間には五感も意識もありますから、口に入ればなんでもいいというわけではありません。たとえば私の家のそばには有機野菜の問屋さんがあるのですが、そこに並んでいる野菜は色つやがよく、色も味も濃いものばかりです。旬の野菜は特にそうですね。野菜本来の力が生きているものは六味(甘・酸・辛・塩・苦・渋)の薬効もしっかりしていて、体のいろいろな機能がうまく働くように促してくれます。新鮮な素材をよく味わって食べると、まず五感が満足します。感覚器官が満足すれば心の満足につながりますから、香りも食感もないサプリメントのような食事では心が満たされないと思います。そして、もっと大切なのは「何を食べるか」より「どのように食べるか」です。何かをしながら食べるのではなく、目の前にある食事を落ち着いて静かに食べることで、食事の内容や味もよくわかり、食べ過ぎや少なすぎることもなく満足し、体を養うといわれています。 ほんの15~20分ぐらいですから、テレビ・パソコン・新聞雑誌・仕事・言い争い・楽しいおしゃべりもいったん止めて食事だけに意識を向けて食べましょう。
長い人生のなかでは、仕事をしながら片手で食べるような忙しい時期もあるでしょう。それでも休日に「食べたいものは何かな?」と自分に聞いてみてください。そのときの自分の体調に合ったものを体は教えてくれますから。疲れているときこそシンプルな料理やお母さんのお味噌汁を思い出すかもしれません。慣れている味は心も体もほっと安心させてくれますし、満足感も得られます。思いやるということは、素材をよく見て、食べる人をよく見ることです。それは誰かをもてなす食事だけでなく、自分ひとりでとる食事についても同じ。仕事や家事の合間に淹れる一杯のお茶も、お湯を沸かして茶葉を選んで……というプロセスに心をこめれば、とても豊かな落ち着いた時間に変わります。
取材・文 古金谷 あゆみ/「スタジオ・ヨギーのある生活」vol.19より