似ているけれど自己判断せずに。「男性更年期障害」と「うつ症状」
医学博士・医師 石井正則
一般的に男性は加齢とともに少しずつテストステロンが減ってきますが、とくに30~50歳代で、色々なストレスが心身にかかり、癒されずにいると、テストステロンの分泌が急激に減ってきます。この急激な減少は、心身にいろいろな症状を起こします。気力の低下、急激な肥満、記憶力の低下、頻尿、夕方の疲労感、睡眠障害、ほてりなどです。これを泌尿器科の先生たちは「男性更年期障害」と呼びます。診察や血液検査をすることで診断されます。漢方薬やホルモン補充療法としてテストステロンの投与で回復していきます。
注意しなければいけないことがあります。なぜなら、これらの症状は、「うつ状態」あるいは「うつ病」と極めて似ていることです。うつ状態もうつ病も性機能の低下が起こるからからです。男性更年期障害と診断されたあと、症状が改善せず、ますますうつ状態が悪化してうつ病の治療が遅れたケースもあります。うつ病と少し違うのは、男性更年期障害は夕方にかけての疲労感や気力の低下、肥満、頻尿です。典型的なうつ病は朝方に気力が低下して夕方になるにつれて元気が出てくるという日内変動があります。食欲の低下から痩せる人が多いですが、逆の人もいます。睡眠障害は起こりますが頻尿によるものではありません。30~50歳代で朝方に気力の低下の人は、いきなり「男性更年期障害」と自己判断しないで、まずは心療内科を受診すべきでしょう。
テストステロンは男性より少ししか分泌されていないと思われていた女性ですが、実験的に管理職の仕事につけて競争を促すハードワークにするとその女性はテストステロンが著しく増加することも最近判ってきました。※3 過剰だと男女を問わず攻撃的で暴力的になります。
では、適度なテストステロンにするにはどうしたらよいのでしょうか?筋肉を使う有酸素運動がテストステロンを分泌することが判っています。しかし、一般人がジョギングを月200キロ以上もしたり、汗をかき過ぎるようなストレスのかかる運動をしたりだと返って分泌が過剰になります。あるいは逆に急減する人もいます。そういう意味では、ストレスをリセットできる呼吸を意識した適度なヨガがテストステロンの分泌には良いかもしれませんね。
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※3 Proc Natl Acad Sci U S A 2015 Nov 10;112(45):13805-10. Effects of gendered behavior on testosterone in women and men.Sari M van Anders,et.al.
文 医学博士・医師 石井正則