桃太郎と言えば、鬼が島。キジ、猿、犬をお供に連れて、島へ渡ったのはご存知の通り。そして、鬼退治をした後はおじいさんとおばあさんのもとへ戻って平和に暮らしたはずですが、何と、今でも、モモタロウは島に住んでいるのです。
 およそ日本から南へ5000キロ、千以上の小さな島々が寄り添うに集まる南太平洋の島国、マーシャル諸島共和国。かつて、冒険小説「宝島」を書いた文豪スティーヴンソンに「太平洋の真珠の首飾り」(Pearl of the Pacific)と言わしめたほどの美しい島々です。
その総面積は茨城県の湖、霞ヶ浦ほど、国民の全人口は約6万人と小さな小さな国です。昔ながらのスタイルで、ココヤシを育てたり、カツオを採ったりしながらのんびりと暮らしています。

 この島で特筆すべきは、そのサンゴの美しさ。島には海にそそぐ川が一つもありません。
雨水はすべて島々の土を濾過されて海に入るので、その透明度がかなり高いのです。太陽の光が海深く届くので、サンゴ達はすくすく元気に育ちます。その海の青さは、「マーシャル・ブルー」と呼ばれ、世界中からダイバーを引き寄せます。
 と言っても、島に暮らす人々は観光業に力を入れてお金を稼ごうという意識はあまりありません。きっと現在の暮らしに過不足を感じていないのでしょう。どうにかなるさ、とあくまでも、のんびりとマイペース。他の南太平洋の地域と同じく、大家族制なので、みんなで助けあっていこうという精神が根づいているのです。

 そのマーシャル諸島を代表する大家族のファミリーネームが、「モモタロウ」なのです。
このモモタロウ一家ですが、政治家や島で初めての歯科医師、NGOの代表者などを輩出する、島の名士。ちなみに現閣僚の一人は、モモタロウ財務大臣! 
 かつてマーシャル諸島は、第一次大戦後から約30年にもわたり日本に委任統治されていました。そのためにマーシャル社会と日本の文化は深いつながりがあるのです。エンマン(円満)、アミモノ(編み物)、フトン(布団)、チャンポ(散歩),ゾウリ(草履)、ヤキュウ(野球)など、マーシャル語になっている日本語も多数あります。日系の住民も少なくないので、とても親日的な国民性としても知られています。モモタロウのご先祖様は、きっと桃太郎の昔話を聞いて、その活躍に胸をときめかせて自らの名前に冠したのではないでしょうか?

 ヤシの木陰で、家族みんなでのんびりとくつろいで、パンの実やココナツ、男達がカヌーで釣ってきた魚を囲んで団らんしている姿は豊かで平和そのもの。島の子ども達のわんぱくそうで純粋な笑顔を見ていると、もしかしたら桃太郎の故郷は本当はこの島だったのでは?と想像したくもなります。残念ながら、マーシャル諸島も、かつてビキニ環礁が水爆実験場になった負の歴史があります(もちろん、現在はその影響は残っておらず、世界遺産にも登録されていますが)。また、地球温暖化の海面上昇の影響により、国土の水没の危機も叫ばれています。
 「いつまでも幸せに暮らしたとさ」とは昔話の結びですが、この島のモモタロウもそんな風になってもらいたいですね。

写真 マーシャル諸島共和国観光局 /文 美濃部 孝