【+Story 02】ちいさな命のお守り
千人針のこと
第2話は、ある赤ちゃんのシアワセを願った“千人針”のこと。あたらしい家族のカタチ、見守る人々の愛情を、ちいさな赤い玉留めが教えてくれました。
【+story 02】ちいさな命のお守り:千人針のこと
2014年の夏、セキさんご夫婦のもとに、養子縁組でひとりの愛らしい女の赤ちゃんがやってきたのだ。まわりの友人たちにとってもそれはビックニュースで、「その子のために何かしてあげたくって、それで思いついたのが千人針だった」と大沼さんが振り返る。
“千人針”とは、昔むかし、戦争に行く人のための「命のお守り」みたいもの。たくさんの人の「健やかに育ってほしい」という合力祈願にすれば、きっと赤ちゃんのお守りにふさわしいものになるはず。そんな思いから、「19701221」で赤ちゃんのための千人針を企画。身につけやすく、よだれかけに仕立てられるように、白い晒に、千の玉留めでピース(平和)マークの絵柄になるように、大沼さんとセキさん2人あわせて千針をめざした。
「これに、玉留めをしてくれませんか?」そんなふうに、出かける先々で、会う人ごとに「ひと針」をもとめる日々は3ヶ月ほど続いたそう。
ひと針お願いするたびに、今回の趣旨を伝え、ことばを交わす。そうしたやりとり中から、じんわり慈愛が広がっていった。針なんて持ったことがないような男性も、やり方を奥さんやまわりの女の人が教えてもらいながら、手慣れないなりに結んでくれる様子は、ほほえましく。そうした時間の共有がほのぼのと愛おしかったと、ふたりは振り返る。
「だれひとり、断る人はいなかった。千人針を知らない若い人たちも、ぶきような人も、はじめて逢った人も。みんな一生懸命やってくれて、涙する人もいたり。すごく共感してくれた想いが伝わってきました」と。
「赤ちゃんが授からずに悩んでいる夫婦やカップル、そして望まずして赤ちゃんを産んだ女性たちにとって、ひとつ選択肢になればいいし、なにより養子になった赤ちゃんが、哀しい偏見や差別をうけることなく育ってほしい。両親にとってはもちろんだけど、赤ちゃんは、まわりにいるみんなの宝物だと思うから」。家族や仲間、ご近所の人、なじみの店の人、すぐそばに、その子の味方がいるという希望。そんな空気をつくるための、ささやかな行動だ。
そんな年齢も国籍もさまざまな人のエピソード満載で、完成した千人針のよだれかけが、上の写真。じつに表情豊かな、赤い玉留めがいーーっぱい! 几帳面な玉、ぴょんと飛び出した玉、ゴロっとはみだした玉もあり、たくさんの人の息づかいが生き生きと感じられる。「うれしかったですよ。たぶん、糸を“結ぶ”という行為は、愛情を込めるのにとても合っているんだと思う」と、赤ちゃんのお母さんでもあるセキさんがいう。
世界にたったひとつの、かわいく、やさしい、シアワセの赤い玉留め。あなたのココロにも、ムスンデ、トドメテ。
取材・構成 おおいしれいこ/ 写真 大沼ショージ/ 協力「19701221」