寒天を好んで食べるようになったのは大人になってからである。子供の頃はインスタントのゼリーの全盛期で、アルマイト製のゼリー型に固められた赤や緑のそれの方が、寒天よりも魅力的だったのだ。思い出すのは父が郷愁から母にリクエストして作らせていた堅めの寒天で、流し缶に固められ羊羹よりも大きめに切り分けられた、うっすら甘く独特な海の香りのするもので、子供にはどうにも野暮ったい食べ物としか映らなかった。

大人になって「豆かん」の渋い魅力に目覚めてからは、寒天のおいしさを認めるも、やはりゼラチンの透明感と食感と応用力にはかなわないと思っていたし、寒天ゼリーなどと呼ばれているものを見下していた感もある。しかし、数年前から黒糖で作る梅シロップを作るようになり、その中に黒蜜とすもものような果物の酸味、まさに「みつまめ」の味を感じたのである。それから飽きるほど(本当は全く飽きないのだが)寒天を煮て、黒糖梅シロップをかけては「ねえ、みつまめの味しない?」とまわりに迫った。

黒糖梅シロップは梅の季節に是非作って欲しい。青梅と同量の黒砂糖を瓶に入れておくだけで出来る。そこで、これからが旬のぶどうで作る「ぶどうの寒天」の作り方を。種なしの巨峰、ピオーネなど紫色のぶどう1房分の皮をむき(皮は成り口と反対側からむくときれいにむける)、実を型に入れる。型はケーキの型、バット、ガラス器などお好みで。粉寒天4gを500ccの水で2〜3分間煮溶かし、砂糖大さじ2杯を入れて溶かす。寒天液をぶどうの入った容器に流し入れる。常温で固まるので、粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。ぶどうの色素が寒天に移り、何とも言えない色になる。

写真&文 中村 宏子