小寒の晴れた日、多摩丘陵の開発を逃れた田園地帯を散策していたら、布田道の途中で、わたしが今までに見た産直野菜の販売所で一番小さいのに出くわした。もちろん無人で、段ボール箱にはほうれん草が3把入っており、蓋には「寒さに弱いのー」と書いてある。先は長いからと歩き出したが、せっかくの出会いだと引き返し、缶に100円玉を入れて1把求めた。この地区の里山散策では誰にもすれ違わなかったが、案外売れるのかもしれない。

冬のほうれん草は、肉厚で根元もしっかりと太く、一年で一番美味しい。冷蔵庫で何日も保存するよりは、とにかくすぐに茹でてしまうに限る。使い道は後から考えよう。ほうれん草はよく洗ってから、30分ほど水に浸けておく。根元だけ浸かっていればいい。こうすると見違えるように元気になる。たっぷりのお湯を沸かして軽く茹で、冷水に取る。ザルに上げ水気を切り、まとめて根本から葉先に向けてよく絞る。4cm長さに切って、すぐ使わないなら冷蔵庫へ。

おひたし、ナムル、ごま和え、どれも安心出来る味。チーズたっぷりの卵焼き、牡蛎や鶏肉と合わせてシチューかグラタン、バターソテー、カッテージチーズ和えなど、乳製品とは特に相性がいい。いつもの味からもう一歩進んで、半量をくるみ和えにしてみよう。くるみはすり鉢でつぶし、しょうゆ、気持ち多めのきび砂糖、酢をほんの少し加え混ぜる。ここへ茹でたほうれん草を入れて和える。後を引く美味しさである。もう半分のほうれん草は何にしようか?

写真&文 中村 宏子