身体を感じることで自分とつながる、するとその人の本質が輝く(後編)
難しいのは、決断すること。こっち岸にいながら、向こう岸には行けない。
トモヒロ タイミングなんでしょうね。13年間同じ会社で働きましたが、だんだん自分の立場も上がり、責任も増え、仕事の量も増えてきました。そうすると、だんだんダンスをやる時間が減り、仕事との両立が難しくなってきました。心の奥底で僕はこういうことをしたいんだ、というのがあり、苦しくなってフラストレーションがたまって。自分に嘘はつけない。また、耳が不自由ということから、職人的な作業をすることはできても、大勢の人と会議をするとなると、どうしても限界があるんですね。そこに苦しさをすごく感じていましたね。その立場での仕事の仕方というのに、限界を感じていました。
ヨガはすでに始めていたので、なんらかのかたちで関わりたいと思い始めていました。かねてからヨガを深めてみたいと思っていたので、会社を辞めた後にハワイに行って、ヨガの200時間のティーチャートレーニング(TT)を受けました。そこで初めてヨガ漬けの生活というのを経験しました。それが5年前です。ヨガに夢中になり、日本に帰ってきて、ヨガの先生として活動が始まりました。
――会社を辞めるのは、勇気がいりますよね。
トモヒロ 怖かったですね。食っていけなくなるんじゃないかと思いました。でも、一番難しいのは、決断することですよね。川を渡るようなもんです。こっち岸に足をかけつつも、向こう岸には行けないですよね。だからどっちかしかない。こっち側にとどまるか、向こうに行くか、どちらかしかできないです。こっち側にいながら、向こう側の様子はわからない。向こう側のことは行ってみないとわからないんです。だから怖いですよね。決断するということは。
すべてを学び、そして忘れろ
トモヒロ うれしいですね。意識をあげていくことってそんな簡単なことじゃないと思いますが。僕自身がそれを体現している、というのが大事でしょうね。ああ、なんか楽しそうだな、と思ってもらえて、なにか感じるものがある、ということが。言葉に出さなくても伝わるものはあると思います。僕自身がそんな存在になることが大事かなと思います。
クラスでみなさんとのコミュニケーションを通じて、僕も満たされるところがありますね。人とつながっているというところで。だからこういう、人にものを教える仕事は、僕にむいている気がします。好きですね。クリエイティブになる必要があるんです。ものを教えるためには、工夫をしないといけないし、わかりやすく論理的にクリアーに伝えないといけないし、けっこう難しいですよね。
――反応を目の前で見れるものいいですよね。
トモヒロ そうですね。やりがいにつながります。失敗したら痛いですけれど、もう、しょっちゅうあります。やっぱりちょっとチャレンジしたりすると失敗することは多いです。無難なところじゃなくて、今日はこれを教えてやろう!みたいな欲が出てくると、反応がいまいちだったりして、へこんだりすることはよくあります。まあそれも経験でしょうね。たくさん失敗しなきゃだめですよね。人に伝えて理解してもらって満足してもらう、というのはそんな簡単じゃないです。
――トモヒロさんの好きな言葉はありますか?
トモヒロ 昔タップダンスをやっていたときにジャズをけっこう聴いていて、マイルス・デイヴィスの音楽とか生き方がけっこう好きです。すごい、自分を持ってるんですよね。最近ツイッターに載せたんですけど、彼の「すべてを学び、そして忘れろ」(Learn all that stuff and then forget it.)という言葉です。まさにヨガなんです。努力をして、手放しなさい。それは彼がミュージシャンとしてクリエイティブになるというひとつの秘訣なんでしょうね。すべてを忘れた瞬間になにかが生まれる、自由な状態になる。やっぱりとらわれているとうまくいかないというか。なんか足枷になっちゃうんじゃないでしょうか。ジャズとヨガはけっこう似ている気がします。今この瞬間とつながる。ジャズもその瞬間、即興じゃないですか。今その瞬間に生きてる、ということを、ダンスにも感じます。自分が踊っているとき、あー、自由だなあと。すごく調子がいいときは、時間がとまったかのような感じがする。時間の感覚が変わるというか。満たされるというのは、まさにその瞬間の、密度の濃い時間を味わっている自分を感じられる、つながっている状態です。まさにそういうところが似てるかなと思います。
前編はこちら。
スタジオ・ヨギーのトモヒロさんのインタビュー「身体を使った表現者から、ヨガインストラクターへ」はこちら。
写真・文 Art of living magazine 編集部