interview
日々の小さな幸せに敏感でいるために(前編)
日々の、小さな幸せ……。これを感じるときってどんなときでしょう?
朝、ベッドのなかで「今日はお休みだぁ」と気づいて二度寝する瞬間?
1日の終わりに、温かい湯船につかったとき?
大切な人の寝顔を見たとき?
なんてことない日に、こういうことに気づける人は、豊かな心の持ち主かも。
でも、せっかくの小さな幸せやありがたみも当たり前になり、
「もっといいことあるはず」と欲が出てくるのも、よくあることです。
だから、大病をして今までの日常生活を送れなくなったり、大事なものを失ったりと、
変わってしまった日常を目の当たりにしてはじめて、何気ない日々の尊さに気づいたりもする。
日々の幸せを、常にありがたく感じられたら、心はいつもポカポカしていられるのに。
どうしたら、幸せに敏感でいられるのでしょう。
そこで、“日々の暮らしにこそ、感性と質感のある振る舞いを”と提唱する会社stillwaterで、プロジェクトプランナーとして活躍する玉置純子さんにお話を聞いてみました。
<<自分の生活を潤していくのは……>>
今を生きる人たちが思う、幸せの価値観にはどんな傾向があるのでしょう。
「2020年春、日本でも新型コロナウィルス感染症(以下コロナ)が本格的に広まり外出自粛が始まってからは、それぞれの人がそれぞれの幸せの価値基準をどこに持っていればいいのかを、本格的に考え始めたなという感覚を持ちました。
というのも、いろんな企業の方とお仕事する機会があるのですが、コロナ以前は、なんでも効率のよいスピードや効果・結果を第一に求められることが多く、私たちstillwaterが日常の暮らし方を提案しても、なかなか伝わらない感覚がありました。でもここ数年、奇しくもコロナになってからは、スピード感、尺度感がより個人的で、リアルなものが増えたと感じています。」
今までにない情勢の変化のなか、個々が考えるのは、今まで直面してこなかった事柄だったはず。
たとえば、自宅待機やリモート勤務になり時間が空いた、でも、不要不急の外出は避けなくてはいけない、じゃあその時間、自分は何をする…?
「忙しく動き回っていた日々から余裕ができた時間、そこをどうやって自分らしく潤わせていくのか。そのやり方は誰にも教わってきてないですよね。
それは一見、“余暇の過ごし方”と思いがちですけど、そうじゃなくて実は“ライフスタイルの本流”なんだと気づいて、その価値を求めている人が増えてきたなと。
一人ひとり違うライフスタイルで、“自分でしか選べない心と時の遣い方”なのだと思います」
それは少しの時間かもしれないけれど、その人の生き方を問われているような時期でもありました。人それぞれのライフスタイルがあると気づきながらも、まだ自分のスタイルや個性を模索している人が多いはず。
そして、これまでの日本人は、個性は大事と頭ではわかっていても、どうしても周りに合わせて横並びをよしとし、それで安心する傾向もありました。
<<自分のなかの多様性を、認めて表現しよう>>
昨今、SDGsの提唱や東京オリンピック開会式などで注目を浴びているのが“多様性”。でも、横並びが得意な日本人には、多様性は苦手かも…?
「多様性って、いろんな人がいるから認め合おう、ってことだけじゃなくて、自分のなかにいろんな自分がいる、ということも多様性なのだと感じています。
たとえば、会社員で、子育てをしていて、普段は5時に帰る人がいたとします。でも、友達と遊んで夜遅くなる日もあるし、旦那さんとひたすら語り合いたい日もあるし、ひとりで行動したい日もある。
そういう多様な自分、その価値観をもっと外に出していいんだと思える時代になっていると感じています。」
ハンディキャップやジェンダーなどの問題だけではなく、個々のなかにもある多様性を認めて、表現していくこと。様々な顔がある自分のなかのひとり、を自覚する。それは多様性をより自分事として理解する一歩となりそうです。
「さらに個々が考えていることを、言葉にできる環境があれば、多様性のある社会が実現できるのかなと思うのです。
もともと自分のなかに多様性があるはずで、そのなかで考えていること、感じていることを、言葉に表しきれていないんじゃないかって。だからもっと言葉に表すために、対話をすることはすごく大事だと思っています。最近は本当にそれができやすい世の中になっているし、SNSであれだけの人が発信をしているので、自分の意見を言いやすい世の中になっていると感じています。
そして、対話をする機会として、すごくいいなと思っているのは、やはり食事の場です。
コロナ禍において、以前と比べると人と食事をする機会を持つことが容易ではなくなってしまいましたが、食事って、1日3回あって、誰もがするもので、エネルギーの源ですよね。
食を通しての会話って、気持ちもほどけやすいし、いろんなことが融解していくのが早いです。それは食が感性に直接問いかけるからだと思うのです。
もちろん食事はひとりでもいいものです。自分自身との対話ができますから。
ひとりだと、テレビやパソコンを観ながら食べてしまいがちなのですが、食事を一口一口いただいていることに集中できるといいですね。
1日3回、食事によって自分に立ち返るリズムができる。対話をすることで、自分自身が理解できてくる。それが自分のあり方や自分にとっての日々の幸せに気づく、というのに通じると思います」