私たちは、人生を大きく左右することから、日常の小さなことまで、さまざまな選択を繰り返して生きています。でも、自分を振り返ってみると、洋服ひとつ選ぶのにもこれでいいやと妥協してしまったり、なんだか最近選ぶことがヘタクソになってきたような……。

「何かを選択するとき、なんとなく胸やおなかに違和感があったり、なんとなくいやな感じがしませんか? でも、忙しかったりすると、この体に起こる『なんとなく』の感覚をないがしろにし、これまでの経験や知識を判断基準にして、安全で理屈の通ったほうを選択してしまいがちです。すると結局すっきり上手くいかずに、何か問題が起こってしまう。そこで大切なのが、この『なんとなく』感じている直感的な判断力を磨くことなんです」

そう教えてくれたのは、著書や講演などを通して直感の大切さについて説く、整体ボディワーカーの山上亮先生。じつは、昔の日本人は現代の私たちよりずっと強く「なんとなく」の感覚を感じていたそうです。

「昔の日本人は、たとえば、理屈では合っているけれどどうもおかしいというときに体で起こる感覚を『腹の虫がおさまらない』と表現して、コミュニケーションにおいてもその感覚を共有し、大切にしていたんです。ですから、私たちももっと丁寧に体の感覚に気づけるはず」

直感を磨き、働かせるためにまず大切なのは、「ぽかんとする時間を持つ」こと。「頭の中が考え事でいっぱいで、体ががちがちになっているときは、体の感覚に気づくことができません」

そして、「何かを感じたら、ぱっと動く」こと。「直感に気づいていても、動かなければ、直感を働かせるということにはなりません。そのためには、行動の要になる“腰”を機敏に動かし、しなやかに保ちましょう」

さらに、「主体性を持って動く」こと。「つねに自分が“主人公”だという感覚を持っていれば、たとえば窓が開いていて寒いとき、誰か閉めてくれないかな、とは思わずに、自分で動いて閉めますよね。そうやって主体性を持って動いていくと、感じたらパッと動くという直感的な行動力がどんどん鍛えられます」

そして、もうひとつとても大切なのは、「直感を働かせて何かを選んだとき、その結果をきちんと引き受ける」ということ。「何かを選択するとき、どっちを選んでもリスクがないのであれば、直感を働かせる必要はありません。でも、自分がリスクを背負うという気持ちがあれば、選択するときに本気になれる。その本気さが直感の鋭さを引き出してくれるのです」

山上先生も「直感を大切にすること」をモットーに、日々生活をしているそうです。「1歳の息子がいますが、子育てはまさに直感そのもの。その他のときも『なんとなく』感じたことをなおざりにしないようにしています。もちろん、腰をぱっと動かせないときもありますし、主体性を忘れてしまうときもありますが、そういうときはあとできちんと反省する。これを続けていると気づかぬ内に直感がきちんと働くようになるんです」

文 小口 梨乃/イラスト 櫻井 乃梨子