子どもをぎゅっと抱きしめたとき、友人がポンと肩をたたいてくれたとき、体と体が重なることで感じる、温かさややさしさは、他に変えることのできない、かけがえのないものだ。

「人とつながり、ふれあうことが、とにかくおもしろい」と、ダンサーの近藤良平さんは言う。「だから、人といつもポジティブに関わっていたい。それは、仲良くなりたいから好意的な態度をとる、ということではなく、人とつながるためには自分が積極的であることが必要だと思います」

近藤さんは、一人ひとりの体が持つ楽しさを伝えるため、プロのダンサーからダンス未経験者まで幅広い層を対象にしたワークショップも行っている。「僕自身ペアワークが大好きで、ワークショップでは、人とつながり、ふれあうことのおもしろさを感じられるようなペアワークもよくやるんです」

たとえば、背中合わせに座った状態から、お互いに背中を押しながら立つという、子どもの頃の遊びのようなワーク。「二人が平等な力で押し合えば簡単に立てますが、どちらかの力が強すぎたり、弱すぎたりすると、立てませんよね。そうやってワークをしていると、相手がやさしい人なのか、ちょっと乱暴な人なのか、ということが体を通して分かってくるんです」

ペアワークのコツは、「相手を信頼すること」だそうだ。「相手が背中の力を抜いてしまったら……などと考えると、一緒に体を動かせません。つまり、相手を信頼せざるをえない。信頼しながら、相手の動きをイメージすると、ワークが上手くいくはずです。とはいっても、相性のいい人もいれば、そうでない人もいる。それは、こんなに人間がいるんだから、あたりまえのことですよね。だから、できなくてがっかりするのではなくて、こういう人もいるということが、分かるだけでいいんだと思います」

それでは、実際に体を動かして、人とのコミュニケーションを楽しんでみよう!

まずは、かんたんな手遊びから。向かい合わせに座り、ひとりが手の甲を差し出し、もうひとりがその上に手のひらをのせる。そして、手の甲を差し出した人が、手を右や左へあらゆる方向に動かし、手のひらをのせている人はその動きについていくようにする。どうだろう? 相手の動きについていけただろうか? 次に、目をとじてやってみよう。すると、どうなるだろうか?

おそらく最初は手の動きについていけない人がほとんどだろう。私も、近藤さんを相手にやってみたのだが、まったく手の動きについていけなかった。しかし、目をとじてみると、不思議なことに近藤さんの手に自分の手が吸いついているかのように、動きについていくことができた!

「おもしろいでしょ。最初は『ついていかなきゃ』と思って、肩やひじが緊張して、体が上手く動かない。でも、目をとじた瞬間に体があきらめちゃうので力がゆるんで、動きについていけるようになるんです」

次に、背中と背中を重ねるワークをやってみよう。まず二人ともうつぶせになり、横にぴたっと並ぶ。そして少しの間、ほおづえをついておしゃべりをしてみよう。すると、急に仲良しになったような気がして、とても楽しくなってくる。それから、なるべく手を使わないようにして、ひとりがもうひとりの背中にゴロンと上がり、背中、おしり、ふくらはぎ、かかとのラインをぴったり合わせて、ゆったりと仰向けになる。

「もし顔を向かい合わせていたら、超はずかしいですよね(笑)。でも、背中と背中を合わせることは、そんなにはずかしさをともなわないので、初対面同士でもふれることができるんです。下の人がつらそうに見えますが、じつはとても気持ちがよくて、ずっしりとした布団をかけている感じに近いですね。人間はほぼ水でできていますから、上にいる人は水に浮かんでいるような感覚も得られます。しばらくすると、下の人の呼吸が上の人に伝わって、もっと心地よくなってくる。じんわりと体温も伝わってきて、お互いの心がだんだん開いてくるはずです」

「胸が開きますし、ずーっとやっていたいくらい、気持ちがいいです」とは、今回近藤さんのパートナーになってくれた、スタジオ・ヨギーのヨガインストラクター、マリコ先生。「人の体温も感じられるので、心もリラックスできますね」

「体と心を開くスイッチは、じつはいたるところに転がっていて、その中のひとつが、人と重なったり、ふれたりすることだと思うんです」と近藤さんは言う。「だれかと手のひらを合わせるだけで、あっという間に楽しくなれる。人が隣にいるんだったら、重ねたり、ふれあったりするほうが、断然おもしろい!」

イラスト 櫻井 乃梨子/写真 野頭 尚子/ 文 小口 梨乃