年齢のせいなのかもしれないが、一人で何かを始めたり、新しい場所に行ったり、ということが昔より億劫になったように感じる。10代、20代の頃の自分を思い返してみると、おもしろそう!と思った場所には、一人でも出かけ、そこで出会った人たちと、印象的な時間を過ごした。そしてその体験は、今もありありと思い起こすことができる。

湘南・江の島にある「リンケージサイクリング」では、“サイクリングの魅力を、みんなで楽しむこと”をコンセプトのひとつに、さまざまなサイクリングプログラムを行っている。「プログラムには一人で参加する人も多く、最初は初対面同士でぎこちないのですが、サイクリングを通して同じ時間を共有すると、終わるころにはすっかり打ち解けて、みなさん笑顔で帰っていくんですよ」と教えてくれたのは、「リンケージサイクリング」代表のサイクリングプランナー、田代恭崇さん。田代さんは、アテネオリンピックにも出場経験がある、日本のロードレース界をけん引してきた一人だ。

「やっぱり潮風を感じながらのサイクリングは、最高に気持ちがいいですから」と、田代さんが拠点に選んだ江の島周辺は、海沿いや川沿いにサイクリングロードも整備されているので、自転車に親しむのに最適な環境でもある。

その地の利を活かし、「リンケージサイクリング」では、ロードレースなどの大会を目指す人を対象にした本格的なプログラムのほか、スポーツ自転車の裾野を広げようと、初心者向けのプログラムも積極的に企画している。

たとえば体験サイクリングでは、クラブハウスで乗り方などの基本的な講習を行ったあと、すぐにサイクリングロードに出て、初心者でも無理のないスピードで25キロもの距離を走る。

「スポーツ自転車はタイヤが細いので、乗るのがむずかしそうに思えますが、少し練習すればバランスを上手に取れるようになり、初めて乗る人でも25キロくらいは走れます。しかも、スポーツ自転車は“ママチャリ”よりもずっと軽量なので、長い距離を走るのが楽なんですよ。また、ランニングのように直接地面からの衝撃を受けないため、膝を痛める心配も少なく、体に負荷がかかりづらい。年齢問わず楽しめる、有酸素運動のひとつなんです」

このプログラムの魅力は、スポーツ自転車にふれあえることはもちろん、サイクリングの途中にジェラートを食べたり、海辺でリラックスをしたり、という時間にもある。

「景色を味わい、美味しいものを食べ、というのも、サイクリングならではの楽しみのひとつですし、みんなで一生懸命体を動かしたからこそ、このような時間がずっと味わい深くなるんだと思います。ほら、みなさんすごくいい笑顔をしているでしょう」と田代さんが見せてくれたのは、スナップ写真が並べられたプログラムのチラシ。そこには、初対面同士とは思えないほどの、リラックスした笑顔がたくさん並んでいた。

「自転車は、人と人とをつなげる乗り物でもあります」と言う田代さん自身も、スポーツ自転車を“みんなで”乗ることの楽しさを改めて実感した出来事があったそうだ。

「スイスのジュネーブからスタートしてパリにゴールするという、オート・ルート・アルプスというアマチュアの大会に2年前に出場しました。アマチュアといっても、1週間かけて、毎日富士山くらいの標高を登って降りるという過酷なコースだったのですが、きついけれど、すごく楽しかったんです。スポーツ自転車好きが世界中から集まってきて、昼間はライバル同士だけれど、夜になるとみんなで宴会をして、しかもすごく飲むんですよね(笑)。走って、食べて、景色を見て、自転車を通して広がる世界を、自分だけではなく、まわりの人と共感することが、大きな楽しみにつながるのだと思います」

イラスト 櫻井 乃梨子/ 文 小口 梨乃