幸せを作る。――人を見る目、直感力と意志
vol.5
――現在、谷家さんは投資家として活躍されていますが、そもそものきっかけは何ですか?
谷家 当時、日本ではまだ小さかったソロモンブラザーズという外資の証券会社に就職したことですね。以前、何が幸せかということをお話しましたが、一番大切だと思うのは“きずながある”ということ。これは普遍的なもので、何かとつながっている、より大きなものとつながっていることが、まず一番大切だと思います。
二つ目が“成長”。少しでもいいから自分が成長していると思えるのがとても大事なんです。僕が大企業ではなく小さな会社に入社しようと思ったのは、この理由からです。自分が就職する20、30年前に、成長過程のソニーやホンダに入った人はとても幸せそうに見えました。当時ソニーやホンダに入った方々は、年をとられた現在、自分たちががんばったから会社も大きくなったと思っている。それはすごく幸せなことですよね。
そこで僕も自分の成長と会社の成長が重なることが一番幸せだろう、と思いました。だから自分もソロモンブラザーズという海外で成功をした証券会社で日本に進出したばかりの小さな会社に入ったんです。それはたいへん幸運な選択だったと思います。今でも僕がベンチャー投資が大好きなのは、経営者の成長や投資先の成長が一番身近に感じられ、同時に自分もいっしょに成長していると感じられるからだと思います。
――なるほど、幸せのキーワードは“つながり”と“成長”ですね。
谷家 もう一つ、“本当の自分を思いっきり表現すること“も大切だと思います。多くの日本人は社会の基準や会社のルールに遠慮して自分を表現しません。逆にウォールストリートとかにいる多くのアメリカ人は自分を表現しているように見えて、ほとんどジーン(遺伝子)とソーシャルスタンダード(社会的基準)にコントロールされてしまっていて、本当の意味での自分を表現していないことも多いと思います。社会的に成功した後に、それを悟ることが多い。だから、煩悩から解放されることもすごく大事なんです。
その意味では本当の自分を思いっきり表現することと、煩悩から解放されることは同じことかもしれなくて、本当の意味でありのままの自分を表現できる人こそが一番幸せだと思います。どんな人もいい個性を持っていると思いますが、社会が良くなる方向と自分の個性が重なっているところを表現する人が一番幸せだし、社会にも良いインパクトを与えられると思います。それが重なっていないところで個性を表現したら、自分も社会も不幸になってしまう。“宇宙の善”みたいなものと重なる方向に自分のありのままの個性を発揮しようとしている人が、一番幸せだと思います。
――制約とか社会にがんじがらめのようですが、同時に人はもっと自由になれる部分があると?
谷家 そう思います。最終的に自分のいろいろな感情は選択できると思っています。感情が起こること自体は避けようがない。どんな人でも腹も立つし、嫉妬もする。でも、その感情は生理学的には一旦は感じてもそんなに長くは続かないそうです。つまり、その後どの感情を思い出し続けるかは、その人の選択なのです。ネガティブな感情は受動的でも続きやすく、ポジティブな感情は主体的に選択しないと続きにく傾向があるように思います。どの感情を選択するかはとても大切で、それによってその人の精神的幸福度が決まるように思います。
――選択ができること自体が幸せということですか?
谷家 最終的には自分のどの感情を大事にするかです。自分にとってどの感情が一番大切なのかを自分で考えて選んでいく。より納得できる人生を歩んでいくために、自分のどの感情が自分にとって本当に大事なのかというのを選択して、そういう選択をずっとやり続けていく。ある意味、修行ですよね。それを続けている人が周りの人にも良いインパクトを与えることができ、自分も幸せになれると思います。さらにそういう人が、より良い方向に社会を変えていくんだと思っています。そういう人の応援をしたいなと。そういう人が増えればいいなと思って投資をしています。
――投資をしたいという人に出会った時に、谷家さんは何か感じるのですか。
谷家 話しをしていて、何かいい感じがするとかはあります。ライフネット生命の岩瀬さんやISAKの小林りんさんもそうでした。アルピニストの栗城史多さんもまださほど有名になっていない頃に知り合ったのですが、ものすごくいい感じがしました。ずっと心から彼を応援してきましたが、彼が最近書いた『弱者の勇気』を読んで、改めてとても感動しました。
――谷家さんの直観力は正しそうですね。違ったな、というのがあまりなさそうです。
谷家 いやいや。ありますよ。失敗した数と損した額ではだれにも負けません(笑)。でも、たくさん失敗したおかげで、ちょっとはマシになってきていると思います。これは経済的な意味だけではなくて、精神的に思っていたのと違ったとかも含めてですね。面白いもので経済的なリターンの多寡と、精神的な満足感の多寡って全く違うんですよね。自分がある人を応援した時に、その人自身の成功度とか僕自身の投資のリターンと、本当に良かったなと思えることとは相関関係は正ですけど、必ずしも一致はしていない。
そういう意味では栗城さんはかすごくいいですよね。今、とても輝いていますよね。とにかく投資や応援をして、その人自身も幸せになったり、その人が、その周りの人にもいっぱいいい影響を与えられたら、とても嬉しいです。
“直感力”はたくさん判断をして、たくさん作られていくもの。それをノウハウとかスキルに置き換えてしまうと、見落としてしまうことがたくさんあると思います。物事は部分に分けては判断できません。ある程度は幾つかの要素に小さく分けていくことはできますが、その過程で切り捨てている部分がたくさんあります。そういう切り捨てられたものの集合体みたいなものが“直観力”なのかなというイメージがあります。その人が持っている雰囲気や波長みたいなものもそうでしょうね。その雰囲気や波長が自分に合うか否かとか。そういうのも、うまく説明ができないですが“直観力”の一つではないでしょうか。
――谷家さんが直感力を働かせるのは、どのような場面でですか?
谷家 何かを判断する必要がある時は、直感ばかりですよね。理屈で判断できることはすごく限られています。直感ともう一つは自分の意志ですよね。将来、こうなったらいいなということを、出会った人と一緒に作っていこうという。受け身でやるよりも、自分も一緒にやった、という錯覚でもいいから思えることは僕にとってとても大事です。「この人とやったらすごくいいのでは?」、「この人とこういうことを目指したら、より面白くできるのでは?」ということを、一緒に作れるかどうかやってみようという意志ですよね。直感と意志が共存して、初めて自分としては判断した気がします。そして、その応援する人と一緒に自分も成長し、社会に何らかの価値を与えることができるかもしれないと思ってジタバタしている時こそが自分としては一番幸せな時間です。
語り 谷家 衛 /イラスト 山﨑 美帆 /構成 サンオープロダクションズ