共同一致の歌
vol.9
この歌詞は民俗学者の宮本常一さんの著書の中にも掲載されています。
そこには雪だるま式に借金の金額が増えて行った事が詳しく記載されていますが、この返済金額は驚嘆の他ないと言っています。
「自分が直接借りたものでないものをなぜ返さなければならないのか」、債主の言いなりに債務をはたすこともないであろう。だから当世風な言葉で言えば、ナンセンス。そのナンセンスはことに島民のすべてが賭けた。何故賭けたのか、またそれによって何が得られたのか、人間の持つエネルギーが凝縮された時、どのような現象があらわれるのか。そういうのを見ていくのも民俗学ではないかと書かれております。共同負債は見島を語る上で、きっと、はずせないのではと思います。
歌の中には債主などのお名前も書かれておりますが、9番の「大岡」などがそれにあたります。
13番の「指導監督」は前回で出てきた厚東毅一氏のことです。
「共同一致の歌」
作詞 多田守家
選曲 長松友吉
1. 嗚呼喜ばし あなうれし
多年の苦心 甲斐ありて
巨額の共同負債をも
償還せしこそ 愉快なれ
2. そもや吾等の この村は
周囲五里に 足らねども
地味(ちみ)肥え五穀 よく実り
牛の産出 おびただし
3. 四方は海に かこまれて
水産利益 無尽蔵
然れば(されば)産物 数おおく
富裕の村と 呼ばれしが
4. 満つれば欠くる 世のならい
明治八年 このかたは
比年干魃 つづきしも
世の趨勢(すうせい)に 伴いて
5. 次第に募る 奢侈(しゃし)の風
殊に物価は 騰貴して
負債は山と 積みぬれど
日々のたつきに おおわれて
債主は茲(ここ)に せまり来て
父祖伝来の 田や畑も
将に人手に 落ちんとす
7. 村の有志者 相はかり
明治十有八年に
官に願いて 保護のもと
共同仕組の法たちに
8. 其後も続く 旱害に
見込みなしとて 其の保護を
解かれし当時の 惨状は
語るも涙の たねぞかし
9. よるべ渚の すて小舟
波のまにまに 西東
漂う中に かろうじて
漕ぎ着けえたる 大岡も
10. 僅か二年で 見はなされ
復(また)もさまよう 身となりて
二十四年の 神無月
尋ねえたるは 島根県
11. 安心せしも 束の間や
堀におちいり またと世に
出ずべきことの 出来ぬかと
自暴自棄にぞ 流れける
花さく時の めぐりきて
拾数年来 ひきつづき
五風十雨の 順序よく
13. 天佑人事と 相應じ
ことに三十二年より
指導監督 人を得て
一同これに はげまされ
14. 晨(あした)に星を いただきて
ゆうべに月を ふみかえり
勤めし上に 倹約し
四十五年の 弥生には
15. 共同一致の 実あがり
三十年の 辛酸で
拾数万円 払い得て
初めて愁眉を 開きたり
16. 楽は苦の種 苦は楽の
種ちょうことは 宜(むべ)なれや
此の苦しみと よろこびは
何時か忘れん わすれめや
17. 是に鑑み われわれは
共同一致 忠実に
勤倹産を 治めつつ
是れ信これ義 俗をなし
18. 実践躬行(きゅうこう) 倦まざれば
家富み村は 栄ゆべし
勤め励まん もろともに
ああよろこばし あなうれし
筆で丁寧に書いて送って下さったので、せっかくなので載せます。
14番の晨(あした)というのは、早朝のことだそうですが、美しい言葉ですね。
歌詞を読むと悲惨な事ではあるのですが、慎ましいエネルギーが感じられ不思議です。
写真&文 野頭尚子