五月ともなれば、北の森も本格的な芽吹き。残雪もわずか、土が香り、春の足音がそちこちで聴こえてくると、森の彼の散策の足どりもぐんぐん軽やかになってくるよう。たまには「あの眺めのいい丘にはどんな春がきているだろうか」と遠出もあるけれど、たいていはテントを張った場所を起点に、あたりをウロウロ。地図とにらめっこして進むこともなく(まあ、もとから人のための道なんてない場所に居るわけで)、あたりの地形をからだでおぼえて歩きまわるのだそう。そうすると、街でもいつも通る路地でみかける猫や看板なんかの景色を自然と記憶するような感じで、だんだん顔なじみの鳥や樹、草花や石やらが、まわりにできてくるらしい。それでまわりの景色になじんでくると、ちょっとした変化やできごとがあると、目に飛びこんでくるようになるそうだ。
 さて、ある日の散策途中、彼の目がキャッチしたものがこちらの写真。その発見したものとは?

――洞のある樹が好きだ。洞をすみ家にしている動物は多いから、穴があいているとついつい「おうち拝見」って、のぞきたくなってしまう。春の散策の道すがら、なんとなく目にしていた樹のなかほどにあった洞も見知ってはいたが、空き家であったはず。
 テントへ戻ろうとしていたときだ。その樹をみるでもなく、5歩くらい通りすぎてから、ん?! と思って立ち止まった。なにか、余分なものが洞のなかにあった気がしたのだ。そのまま後ずさるように、5歩分の足を戻し、もういちど洞をみてみた。はたして、洞の入口には、木屑みたいな異ブツがはさまっていた。なんやあれ? よーくみようと身を乗りだしたそのとき、木屑が突然ぱちりとオレンジ色の目を見開いて、いきなり生きものに変わったのだ。
 オオコノハズク。名前に「オオ」とつくものの、体長は20センチほどぐらいのちいさなフクロウだ。眠たいのか、すぐに目を閉じ、また木屑に戻った。昨日まではみかけなかったってことは、この洞に引っ越したてきたばかりでお疲れなのかもしれないな。
 翌日、新入りにあいさつしてやろうと、洞のあるところで立ち止まり、おーいと呼びかけたりガサガサ音をたててみたら、ひょいってな感じであらわれ一瞬目をあけ、あいさつの仁義をきったら、またすぐ目を閉じた。木屑にもどった彼は、まるでちっちゃなトトロだった。――

写真 細川 剛  / 文 おおいし れいこ