昨年3月のこと。毎年味噌をつくっているセンセイに教えを乞い、友人と二人、はじめての味噌づくりを試みた。自家製味噌なんてデキル人のすることであろうと長年思っていたが、実際にやってみると、作業そのものはいたって簡単。茹でてつぶした大豆を、塩と合わせておいた米麹と手で均等に混ぜ合わせるだけ。家庭用の鍋で大量の大豆を数回に分けてゆでることと、大豆をつぶす作業が手間といえば手間だが、天気のいい休日、女三人おしゃべりに花を咲かせつつ(昼間から一杯ひっかけつつ)、ひたすら手を動かす時間は何ともたのしいひと時だった。

できあがった味噌は容器に詰めて、途中、天地返し(全体を均一に熟成させるため満遍なく混ぜる作業)を行ったら、あとは熟成を待つ。仕込む時期や麹の量、食べる人の好みにもよるが、仕込んでから半年~1年くらいが食べごろとのこと。1年を過ぎると味が落ちるという人もいれば、巷には5年熟成味噌なんてものもあり、素人のわたしにはよくわからない。センセイは先ごろ小分けしたというが、だらしのないわたしは「そろそろ開けな~」といい続け、気づけば13カ月も放置(ポジティブにいうと熟成)。

すっかり開封するきっかけを失っていたところに、友人から「味噌、開けた?」とのメールが届いた。どうやら同類であったらしく、恐る恐る開けてみたらとっても美味しくなってた! というではないか。ならばと張り切って開けたところ、恐れていたカビは見当たらず、梅雨明けの天地返しの際に見た山吹色の姿とは一変、艶ややかでこっくりとした飴色に。たまらず指ですくってなめてみると、もう美味しいのなんの。コクがあってうまみが強い。自家製味噌は自慢したくなるほどうまいと聞いてはいたが、自分でつくったとは思えない出来にイヤッホーと古い雄叫び。調子に乗ってご近所に配ってしまいそうな勢いだ。

こうなると、今からでも翌年の分を仕込みたい。聞きかじった情報によれば、味噌づくりは、雑菌が繁殖しにくい1月から3月におこなう寒仕込みが主流。だいぶ暖かくなってきているので、やはり気になるのはカビのこと。味噌づくりにはつきものといわれるこのカビ、わが家も天地返しの際にごっそりすくい取ったが、害はないらしいので広がらないように取り除けばOK。

真夏をのぞく1年中、味噌を仕込んでいる別の友人は、ホーローや陶器などあらゆる容器を試した結果、カビの発生が一目瞭然なジップロックに落ち着いたという。麹の味を生かしたいと塩の量をかなり少なくしているため、なおさらカビがつきやすい環境だが、仕込みや天地返しの際に雑菌が入らないよう徹底していることもあり、今のところカビは皆無だそう。またある人は、味噌が柔らかくなって熟成が進んでくるとカビはつきにくくなるので、仕込んでから1、2カ月のあいだ注意してあげればよいといっていた。

味にうるさい夫も「これだけ美味しくできるなら、麦味噌もほしいなあ」といい、わたしは、大豆と塩だけでつくる東海地方の豆味噌が気になっている。よその家の自家製味噌を食べ歩いてみたいなんて野望もふくらむ。一人で仕込むより大勢で混ぜたほうが、みんなの手の菌が入って美味しくなるという話も聞いたので、食いしんぼうを募って近々、今年の味噌づくりを開催する予定。

写真&文 松田 可奈