近頃よく耳にする「腸内フローラ」。毎年恒例で3月におこなわれる健康博覧会でも話題となっており、TV番組でもよく取り上げられていますね。元々、2015年2月にNHKスペシャルで「腸内フローラ」が放送されてから、注目されるようになったようです。

腸内フローラとは、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)のことをいい、「叢」は本来“草むら”の意味です。これまで腸内細菌は、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌(ひよりみきん)」と3つに分類されてきました。善玉菌は体によい働きをし、多ければ多いほど健康、悪玉菌は、体によくない、優勢な菌になびくのが、日和見菌というように言われてきました。ところが、 “フローラ”=お花畑のように、細菌の“多様性”とバランスが、腸内の健康を決める、ということが最近の研究でわかってきたのです。悪玉菌でもよい働きをするものがあったり、日和見菌が少ないと健康的ではなかったり、善玉菌があってもそこに栄養がいかないときちんと働かない、ということなんです。

「微生物の世界は壮大で複雑です。有用なものを選び、不要なものは排除する、という選別を宿主※ができるものではありません。善も悪もすべてを包括した『もうひとりの自分』が私たちの腸の中にすんでいることを、まずは心にとめてください」と、医学博士の藤田紘一郎さんは著書『最新!腸内細菌を味方につける30の方法』で述べています。
※宿主は、人間のこと

体の中にある腸内細菌は、どのくらいの数があるかというと、なんと約1000種類、100兆個(!)だそうです。そもそもヒトの体を構成する細胞は、37兆個あると言われています。単位がすごすぎてよくわかりませんよね。とにかく、名前も知らないようなたくさんの種類の細菌が腸内で働いている、ということなんですね。

腸内細菌の種類は、生後1年の間に決まると言われています。お母さんの産道を通り、様々な人に触れ合い、食事や生活環境のなかで多様な細菌に触れ合うことで、その人自身の腸内フローラ、つまり、多種・多様性のある腸内細菌叢が形成されるそうです。生後1年で組成が決まってしまう腸内フローラも、食事や生活次第で、良好になって健康になり、荒らして病気を誘因したりします。つまり、宿主であるその人自身によって腸内フローラのコンディションを変えることが可能なのです。腸内の細胞は1日という短い時間で生まれ変わるそうです。食生活を変えると、数日のうちに腸内フローラは変化し、逆に悪影響もそれだけすぐに及んでしまうもの。

様々な研究がいままさに現在進行形でおこなわれている腸内フローラ。一過性の流行にとどまらず、人の健康を全身でとらえる“科学”なのです。

文 七戸 綾子