スタジオ・ヨギー物語Sawako, A Day in New York
episode #2
うんうん、わかるわかる。あなた、正しい! 佐和子さんは、知らない人の会話に心の中で相槌を打ちながら、マンハッタンの街を闊歩します。電車でもカフェでも、何かの拍子に誰かとのおしゃべりが始まれば、佐和子さんの頭はフル回転。数分で別れるような偶然の出会いにも、百パーセント心を入れて、身を入れます。
太夫佐和子、二一歳。後にスタジオ・ヨギーの創業者となるこの女の子には、社交辞令でお茶を濁すということがないのでした。子ども相手のバトミントンでも、手を抜かない。たかがゲームも、本気でやる。そんな彼女のことを友だちは「炎の民族」と呼び、もっと肩の力を抜いてもいいんじゃないのと諭します。そんなとき佐和子さんは思うのでした。だって心を入れてやるほうが楽しいじゃん、と。
お母さん、私ちゃんとニューヨークに着いたよ! 佐和子さんは心の中で叫びました。出発のときには「もう娘はいないもんだと思うから」と泣きながら見送ってくれた日が、嘘のように遠く感じられます。
一日に何時間も列車に揺られ、永遠に続くかと思われるほどの砂漠やコーン畑を眺め、人と出会い、話し、ときには夜行列車でゴミ袋をかぶって眠った二ヶ月間。
あ。
佐和子さんは、文字どおり心を奪われました。西海岸から東海岸までアメリカの大自然を余すところなく見てきたはずなのに、そのどれよりもマンハッタンの街は生き生きと脈打っているように見えたのです。ゆっくり動いていくビルの陰を何時間も飽きることなく眺め、すっかり日が暮れたころ、佐和子さんの心は決まっていました。絶対、この街に引っ越してこよう。
それから、あっという間に十数年。佐和子さんは今日も心の中で知らない人の会話に相槌を打ちながら、マンハッタンの街を闊歩します。大好きな街がテロで傷ついた日も、ヨガとともに再生していった日々も、ヤスシさんに出会った日も、ずっとそうしてきたように。
文 古金谷 あゆみ/「スタジオ・ヨギーのある生活」vol.13より