インタビューに訪れた時、大野さんは初めての出産後まもない時期でした。お子さんを連れて初出勤していたドッツジャパンのオフィスで、お話しを伺った。

自分の生まれた意味を、感じていたい。

強く心に響いたことを見逃さず、次々とかたちにしてきた大野さんの信条を聞くと、「自分にしかできないと思える役割を果たすこと、仕事をすること」という答えが返ってきた。

「自分の生まれた意味を、自分を、感じていたいんです。」

それは、大野さんが母のように慕っている女性から、20歳のころに言われた言葉でした。「人は生まれたからには、自分にしか果たせないことがある。それを果たせないで亡くなるのは悔しいこと。」そう言われた時、意味がよくわからなかった大野さん。その言葉をその後も考え続け、どんなことでもいいから、自分にしかできないことは何かを、いつも自分に問い続けるようになったそう。

「自分がやりたくないことやることや、やれないことをやろうとするのは、無責任にも思います。」

フーヒップのイヤリングとネックレスをつけている、髙嵜さんもまた大学でのキャンパスライフをともに過ごした大野さんの友人。フーヒップを愛用し、いつも購入して応援してくれている。子育ての先輩でもある彼女は、いまはドッツジャパンの経理や総務といった事務を担当している。

「このタイミングで一緒に仕事をできることに感謝しています。縁を感じていますね」と大野さん。

憧れとなって、次の世代の希望になった女性たち

紆余曲折を経て、諦めずについてきてくれたメンバーが、今アトリエの熟練アーティザンとなり、フーヒップを引っ張っている。

後進の育成も彼らが行い、アクセサリーの売り上げの一部で行なっている、子どもたちを対象とした非営利教育事業HUE HAPPY PROJECTでも彼らがリーダーとなりつつある。そこに誇りをもって、フーヒップの仕事に取り組めていること。身近な憧れのお姉さんとして、コミュニティのロールモデルとなったアーティザンの様になりたいと、みずからアトリエに志願する子どもや若者が出てきたこと。大野さんは、これらがまさにコミュニティチェンジに繋がる大きな一歩と感じている。

「“こういう風になれたらいいな”とすら思えなかった女の子たちが、技術を身につけて職人になって、憧れの女性になっているんです。次の世代の希望になっているんです。」

フーヒップで働く女性たちは、努力して生活基盤を作った。その子たちに何をしたい?と聞くと、「フーヒップにはまだ貧しい子たちがいるので、“読み書き”を教えたい。」「手に職をつけてもらいたい」、と答えてくれるそう。自分たちの後輩に還元しようとしているのが一番うれしいことだと、大野さんは嬉しそうに話す。

熟練工となったアーティザンとともに、フエのアトリエにて。いちばん左が大野さん。右端が高橋さん。大学時代からの友人である大野さんと高橋さんは、不思議と人生の岐路にはいつもお互いの姿があったそう。血のつながりを超えた縁を感じている。

「コミュニティ全体が貧困から抜けられる希望がみえてきました。30人から10人にしぼるような厳しい基準があってよかった。だからこそ、リーダーが育ったと思います。」

HUE HAPPY PROJECT開始時には、参加メンバーは30人程度いたそうだが、その後、Phuhiepの職業訓練を経て職人としての基準に達したのは10人にも満たなかった。少人数となったが、そのまま事業で雇うことになったという。それ以外の子たちは、別の仕事ができるよう非営利でのサポートを継続しているそうだ。

「異なる文化や経験・知識が背景にある私たち日本人が時間を5年かけて丁寧に育成してきたけれど、いまは、同じコミュニティ出身の先輩から伝えているので、もっと短い時間で次の世代を育成できると思います。地元の言葉で、コミュニティの事情を理解しながら伝えられることで、スピードが全然違う。成長のスピードがほんとうに変わっていけそうです。」

今後は、この事業を継続していきたいと考えている大野さん。人を育てていくのに時間がかかる。売れた、というブームで規模を広げても、売れなくなったら縮小しないといけなくなる。そういう浮き沈みを望んではおらず、需給バランスを大事にし、実力をコツコツと時間がかかっても積み上げ、アトリエの規模感を常に意識している。

「人数が少なくとも技術と精神力、次の世代を育てる価値の方が重要ということを、いつも高橋さんやアトリエのスタッフと確認しあっています。」

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「たまたま出会ったフエの女の子たちをなんとかしたい」という想いから、仲間とともにフーヒップというアクセサリーブランドを育て立ち上げ、ドッツジャパンで事業化してきた大野さん。彼女と仲間たちの喜びは、フエに新たな希望が生まれ、新しい世代が育ってきていること。教育の大切さと、希望があることで命が輝くことを改めて教えてくれた。

インタビュー前編「情熱を傾けられることを見つけた」

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写真提供:Phuhiep / photography by Jiro Nakajima/取材 七戸 綾子