「マスク」「うがい」「手洗い」の中で風邪やインフルエンザの予防で忘れがちなのはどれ?
医師 小野江 和之
私自身の診療上での経験ですが、たとえばどこかの5人家族、例年なら2人目も発症したから大変だ、くらいの話なのですが、今年は本当に一家全員感染 したようなケースも見かけます。「職場にインフルエンザの人がいたけど私は大丈夫ですか?」などという患者さんの話も、例年ですと心配しすぎだな、と感じる場合が多いのですが、今年はいかにも本物っぽくて実際本物だったりします。さて、そんな中、私たちはこれからどのようにインフルエンザにかからないよう気を付けていったらいいのでしょうか?
まず最初に大切な基礎知識、「インフルエンザはどうやってうつるのか」を説明します。
インフルエンザがヒトからヒトにうつる方法には二種類の感染経路があります。一つは、「飛沫(ひまつ)感染」です。感染した人が咳やくしゃみで飛ばした飛沫(細かい水滴)に含まれるウィルスを別の人が鼻や口から吸いこんで、それがのどの粘膜に付いて体内に侵入し成立します。
もう一つは、「接触感染」です。咳やくしゃみをおさえた手や鼻をかんだ手などに付いたウィルスが、その後その手で触ったもの(ドアノブ、手すり、つり革、エレベーターのボタン等)に付着し、それを別の人が触って自分の手に付け、更にその手で自分の目や鼻や口を触ることによって体内に侵入し成立します。ウィルスを含んだ飛沫を直接吸いこむ以外にも、まず手に付いて(付けて)、その手で自分の顔を触ることでうつる場合もあるんだということに注意して下さい。
これらを踏まえると、私たちがインフルエンザにかからないようにとるべき対策の方向性がみえてきます。まずインフルエンザの流行期間中は「人混みを避ける」「ウィルスが沢山いそうなところに近付かないこと」は基本中の基本です。
しかし私たちはずっと家に篭っているわけにもいきませんし、家族がどこかでウィルスをもらって帰って来ることだって当然ながらありえます。そんな時、どうやってウィルスが体内に侵入してくることを防ぐのか。先ほど説明した感染経路に分けて考えると、飛沫感染に関しては「吸いこまないこと」、接触感染に関しては「触れないこと」「触れても洗い落とすこと」が大事です。
予防のための具体的な手段について考えてみましょう。まず「マスク着用」。普通のマスクを付けた程度では飛沫感染を完全に予防することは出来ないと言われていますが、一方で多少は防いでくれるとも言われています(報告により結論は色々です)。しかし実はそれ以上に、マスク着用は接触感染を防ぐ(自分の鼻や口を触りにくいので)ことが言われており(おそらく正しいです)、また難しい理屈は省略しますが、吸いこんだ空気の温度を保つことで空気の湿度(絶対湿度)も保ちやすくなります。のどの粘膜の乾燥は間違いなく防いでくれ、粘膜のバリアを保つことに有効です。
(※余談ですが、マスクを着ける際には口だけではなく鼻もしっかり覆いましょう。口だけ隠して鼻丸出しの人、医療職の人にも結構います。それではあまり意味がないです。)
そうすると「こまめな水分摂取」も有効そうです。口の中やのどなど局所の乾燥を防ぎ、体全体の水分量を保つことにもつながります。
(※かかってしまった場合の治療においても、脱水状態になることを防ぐ・もしなってしまった場合にも脱水状態を解消することはかなり重要なポイントです)。
それと忘れてはならないのが「手洗い」です。これらの予防策のなかで、実はもっとも抜けがちであると言えるでしょう。風邪やインフルエンザの予防について考える時、何か病原体を口や鼻から吸い込むイメージは皆さん割と持ちやすいようなのですが、手に付いたウィルスは結構考えから抜け落ちがちです。しかしこれがかなり重要な対策ポイントになるのです。
手洗いをするまでの間は自分の顔には触れないようにして下さい。マスクを外す時にも注意が必要で、マスクの表面に付いている(であろう)飛沫を手で触らないよう注意して外すのはもちろんのこと、外した後のマスクはきちんと処理して下さい。再利用は避けるのが無難です。
この他にも、室内の温度や湿度が下がらないように気を付ける、睡眠や食事など規則正しい生活を心掛け、体力が落ちないようにするなど、インフルエンザ(やその他風邪一般)にかかりにくくするための工夫は色々思いつくのではないかと思います。それでいいんです。それがこの記事の狙いです。書かれたキーワードっぽいところを守るだけじゃない、自分の頭で何をすべきか考えて、心を配っていただきたいという願いを込めて書きました。元気でこの冬を乗り切りましょう!
文 医師 小野江 和之/編集 七戸 綾子