いわゆる風邪。正確には「風邪症候群」といいます。風邪のうしろに「症候群」がくっついています。ところで症候群って一体何でしょう。wikipediaで調べてみると、「症候群(しょうこうぐん、英: syndrome、シンドローム)とは、同時に起きる一連の症候のこと。原因不明ながら共通の病態(自他覚症状・検査所見・画像所見など)を示す患者が多い場合に、そのような症状の集まりに名をつけ扱いやすくしたものである。」とあります。

要は、そういう一連の症状を生じる急性感染症色々をまとめて風邪(症候群)と呼ぼうということなのですね。では何故そのようなことをするのか。一つには、症状が似ていて対処方法が大体同じだから細かく分ける必要があまりありません。もう一つは、実際のところ細かく分けるのが大変すぎます(というか無理なんです)。

以前別の記事(風邪。受診や薬は必要?~体のバランスポイントを見極めよう。~)でも取り上げましたが、水分をこまめにしっかり摂って温かくしてゆっくり休むのが一番というのは風邪全般について広く当てはまることです。別に、〇〇ウィルスだからどうだとか別の××ウィルスだからこうだとかいうのは、基本的にはありません。

※例外として、たとえばインフルエンザの時には抗インフルエンザウィルス薬というのが存在しますが、それは例外です。そしてこれも以前に書きましたが、抗インフルエンザ薬は多くのインフルエンザ患者さんにとって必須のものではありません。

ところで、目の前の患者さんが一体何の病原体によって風邪症状を呈しているかは調べるのが大変なので置いておくとして、世の中の風邪全体を調べた時に、どの病原体がどの程度の割合で、というのは一般的知識として医療従事者には広く知られています。報告によって数字は若干変わりますが、日本呼吸器学会によれば、風邪の8から9割はウィルスによる感染症、残りは一般細菌、マイコプラズマ、クラミドフィラなどその他病原体による感染症とされています。

また一般論として、ウィルス感染症に対して抗生剤は無効です(仕組みはややこしいので割愛します)。一方で、一般細菌やマイコプラズマ、クラミドフィラについては、薬剤選択さえ正しければ、抗生剤は有効な感染症治療の道具です。

ここまで読めばもうおわかりかと思いますが、大抵の風邪症状の患者さんについて、抗生剤投与はあまり意味がありません。むしろ抗生剤投与に伴う副作用で発疹が出たり、下痢や食欲不振等の消化器症状を出すリスクが生じます。

さらに抗生剤は大抵の場合お薬代もそれなりにします。そして軽症の細菌、マイコプラズマ等による感染症は抗生剤投与なしでも自然軽快することが多いです。

なので、風邪で受診した患者さんに最初からあえて抗生剤を処方・投与するというのは、実は限られたケースのみである、と言ってしまっていいと思います。症状や流行期、家庭内に発症者がいるなどで抗生剤が有効な感染症が濃厚に疑われるケースや、症状がとても重い場合・重篤な基礎疾患があるなどで、もし少ない確率であっても抗生剤を投与して何とかしたいという場合などですね。

出だしは普通のウィルス感染症だったのが、経過が思わしくなく、こじれて最終的に細菌性などの気管支炎や肺炎を続発することも可能性としてはありえます。しかし、初動の段階で抗生剤を内服開始することでは細菌等の感染症の続発を予防することは出来ません。

たまに「肺炎になるのが心配なので…」と抗生剤の内服を希望する患者さんがいますが、今現在肺炎ではないのであれば、その時点で抗生剤をのみはじめることには予防的な意味がないのです。それよりも(繰り返しになりますが)、自分の体力を風邪の治療にしっかりと振り向けるべく、水分や栄養をしっかり摂って保温安静につとめることが重要です。薬さえのんでおけば…という風には考えないようにして下さい。

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文 医師 小野江 和之/編集 七戸 綾子