女性に増えている耳鳴りと肩こり。薬に頼らない緩和方法は?
医師 石井正則
わたくしの外来に耳鳴りだけを訴えて受診する患者さんが年々増えています。いままでは中年の男性が多かったのですが、最近は明らかに20~40歳代の若い女性が増加しています。
耳鳴りの90%以上の人に難聴があることが統計的に分かっています。年齢とともに加齢性難聴になるため、中年以降の耳鳴りの原因は難聴だと言えます。このような難聴がある場合、難聴の周波数の音に一致するような音が聞こえます。たとえば高音部の難聴がある人は、ジーというセミの音が聞こえてきます。
でも増加している20~40歳代の女性には、このような加齢性難聴になる人はまだいません。実際にこの年代の患者の聴力検査では一部の例外を除いて多くの人に難聴は認められません。「一部の例外」とは、低音部の難聴の人がいることがあるのです。この「低音部型難聴」もいま急増しています。低い音が聞きにくいと、耳が詰まった感じや、ボーとかゴーとかの音が聞こえます。
耳鳴りが起こる機序(しくみ)はまだ不明な点があるのですが、いま脳内の聴覚に関係する部位がクローズアップされています。中枢性理論とも言われ、難聴になると、脳の中でその周波数の音の聞こえが低下するため、脳では、その音のボリュームを上げて聴こうとします。これが耳鳴りとしての脳の中で音が聞こえてくるのです。
さて、耳鳴りと肩こりの関係ですが、耳鳴りを症状として来院した患者さんに、43項目の症状に〇をつけてもらうアンケート検査(自律神経問診票検査)を実施しました。たとえば「便秘しやすい」、「冷え症」、「乗り物酔いしやすい」などです。その中で一番多い症状が「肩こり」だったのです。なんと、耳鳴りの症状のある人の実に94%が肩こりを訴えていたのです。肩こりは、日本人に多い「頭痛、めまい、肩こり」という三大症状の一つで、いずれもが近年増加している症状です。
肩こりは、ほとんどの場合、姿勢の悪さと過剰な緊張からきます。姿勢が正され、過剰な緊張が癒されると、交感神経の興奮が低下して、ストレスから開放されます。その結果、耳鳴り(とくに低音部型難聴からくる耳鳴り)は軽減する可能性があります。ただし、肩こりは結果であって、耳鳴りの原因ではありません。
つまり、
ストレスがある → 肩こりがでる → 耳鳴りが強くなる
というような流れになります。
悪循環になる例としては、相互が影響し合い、結果として耳鳴りが強くなることです。
ストレスがある ↔ 肩こりがでる
↓
耳鳴りが強くなる
耳鳴りがある人の脳波と自律神経の特徴
耳鳴りの中で、難聴のない耳鳴りが20~40歳代の若い女性に増加しています。これを「無難聴性耳鳴」といいます。耳鳴りを強く訴える患者さん10人と無難聴性耳鳴の患者さん14人の合計24人の脳波と自律神経機能を測定しました。
椅子にすわり、閉眼して安静にしていても、例外なく全員の脳波にアルファ波が減少し、逆にベータ波が増加していました。自律神経のうち交感神経機能も、皆さん著しく興奮していたのです。これは脳も自律神経もかなり興奮状態にあることを物語っています。
分かりやすく言えば、自分の目の前にクマがいて、まさにクマが襲いかかろうとしている状態なのです。しかもこのような方の呼吸状態も全員が肩で息をする浅い呼吸だったのです。いかに皆さんがリラックスできず、心身ともに極度に緊張し興奮した状態かが分かると思います。
耳鳴り症状を軽減するには?
では、薬に頼らない方法はないのでしょうか?
あります!
呼吸を意識したアジア系の運動です。「太極拳」「気功体操」「ヨガ」「合気道」「すもう」・・・・・・。中でも、呼吸を意識した瞑想や、呼吸と身体の動きに特化したヨガ(スタジオ・ヨギーではフロークラス)や、長めのシャヴァ・アーサナ(屍のポーズ)で、副交感神経機能を高めると、耳鳴りも肩こりも症状の緩和になります。
一番重要なポーズは、シャヴァ・アーサナですが、それに至るまでの過程が大切です。つまり、呼吸を意識した一連の流れ(ウォームアップ、ピークポーズ、クールダウン、シャヴァ・アーサナ)です。副交感神経がとても活性化して、リラックス出来るからです。
しかし、くれぐれもホットヨガは気をつけて下さい。ホットヨガのあと、返って耳鳴りが増悪した患者さんが何人もいます。めまいや難聴まで起こした人もいます。検査の結果、交感神経の異常興奮が長く続くことが分かりました。
いずれにしても、耳鳴りがひどく気になり、肩こりがつらいときには、自分がストレスから生じる緊張した生活の中にいることを自覚すべきです。いかに心と体を癒すことが大切だということです。その中で健全なヨガは、その癒しの役割を担う一つだと考えます。
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医師・医学博士・JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長 石井正則