悠久の時を超えて……。
ある旅行に関するアンケートで、堂々の一位に輝いたのが、アンコール・ワットです。ジャングルの緑の中でどんと構える巨大な石積みの伽藍、そして天空にそびえ立つ尖塔を、写真やテレビで目にしたことがあるでしょう。アンコール・ワットは、世界最大級の寺院の一つで、世界遺産にも登録されているカンボジアでもっとも人気の観光スポットです。国旗の絵柄のモティーフにもなっていることからも、いかにカンボジアの人々が、アンコール・ワットを誇りに思っているかがわかります。
訪れた人々の感想は、「圧倒された」、「美しい」、「壮大すぎる」、「神秘的」……と、かなりの感動の具合。読者の皆さんの中にも、きっと足を運んだことがある方がいるはず。感想はいかがでしたか? そうなんです。旅行ライターの端くれを自認している私ですが、いまだにこの世界的な観光地を訪れたことがないのです。これはいかん! と奮起して、早速、カンボジア行きのエアチケットを手に入れました。
街の喧騒を抜けると、周りの風景はジャングルの緑に変わっていきます。そして、突如として視界が晴れ、豊かに水をたくわえた湖と木々が密集した島が現れます。そう、アンコール・ワットのお目見えです。ツゥクツゥクに揺られてわずか10分ほど、カンボジアの至宝は意外にも街の近くに存在していました。湖に見えたのはアンコール・ワットをぐるりと囲む堀です。その敷地は東西1.5km、南北1.3kmにも及ぶのですから、島のように見えるのも無理がありません。正面入口の西参道の橋を渡り、第一回廊を抜けると、思わず息をのむはずです。広大な庭の向こうに、青空に向かってそびえる巨大な塔が! その高さは約65m、日本の国会議事堂と同じだと言いますから、その壮大さがわかることでしょう。まるで悠久の歴史の世界に迷い込んだような不思議な気分になります。
まだアンコール・ワットを訪れたことがないのなら、ぜひこの地を訪れて、その歴史の流れに耳を澄まして下さい。その静かな流れは、ようやくカンボジアが手に入れた平和への調べと言っていいのかもしれません。
写真/ 文 美濃部 孝