ドライフルーツの量り売り、届けたいのはストーリーです。

 アフリカ諸国やトルコ、スリランカから届いたドライフルーツを口にしてみると、単に甘いと表現できない、複雑な味わいが凝縮されたその一片に、感動すら覚える。色とりどりのデーツやフィグ、パイナップルなどのドライフルーツや、生くるみや生カシューナッツなどのナッツ類を量り売りしている。ドライフルーツの甘みと椰子の花蜜などで作ったジェラートは、優しいのにきちんと主張してくる味わい。店頭では、ターバンにヒップスカーフ、パープルのロングスカートとTシャツを身に纏った若い女性たちが、通りかかる人々に笑顔で試食をすすめている。その語り口は滑らかで「タクラマカン砂漠の熱風で乾かし、夜空の星々に照らされたデーツは、古代エジプトのひとびとも食べていた保存食だったんですよ」。星空の美しさに、砂漠の熱風。デパートの食品売り場ではまず聞こえてこない謳い文句である。

 『FAR EAST』を手掛ける佐々木美樹さんと夫で同社代表の敏行さんは、20代のころ世界をくまなく旅して、異文化にどっぷりはまった。旅した国々のなかで、ひときわ記憶に残ったのが中近東の市場の情景だった。「市場の雑踏、音や声、香りや色、取り巻くすべての活気と共に市場ごと運んできたいと思いました。そこにはまさに歴史や生活様式、文化の在り様が詰まっていたんです。世界から見れば日本は、遥か遠い東の国(FAR EAST)です。いつかそこまで届けたいと思いました」。ドライフルーツのおいしさだけでなく、取り巻く歴史や文化の中に豊かさや面白さがあり、そこにあるストーリーこそが届けたいものなのだという。そのため、スタッフの多くはアフリカやエジプトの現地仕入れ先を訪ねる体験をする。陽射しの強さや土の赤さ、カヌーが漕げないほど細い川を行きようやくたどり着ける村の様子など、実際に肌で感じることで、商品の説明も断然違ってくるのだそうだ。佐々木さん曰く「やはり、私たちがどんなに言葉を尽くしても、すべての素晴らしさは伝えきれません。自分の目で見て感じ、生産者の顔を見て信頼を得た後に自ら出てくる言葉には、熱が宿るんです」。

もともとは、空気、水、塩のように、人の生活になくてはならないものを取り扱いたかったと佐々木さんは語る。「会社をはじめる前、私たちは日本中の家屋や土地の調査の仕事で地場改良に繋がるといわれる備長炭と出会い、販売をしていました。土壌や空気を浄化してくれるという、あの炭です。今思えば、生活における必要性や、炭が持つストーリーに魅了されていたのだと思います」。佐々木夫妻はその後、岩塩の輸入を開始する。塊で届くロックソルトを削りながら販売した。市場作りにむけた第一歩だった。

伝えることに本気で取り組む姿勢。

岩塩を販売するにあたって、夫妻が取り組んだのは「実演販売」でした。「お祭りの出店で備長炭を売り歩いていた時代に身につけたのが、“惹き付ける力”です。楽しい口上がなければ、誰の足も止まらないんです。大きな備長炭をその場で斧で切ってみせるパフォーマンスを取り入れ、衣装もこだわりました。鼻先に黒い炭をつけながら「寄ってって!」と叫べば、たちまち炭は売れていきました」。

商品を人に伝える方法はひとつではない。場所や時間、パフォーマンスなど趣向を凝らすことが、ものの奥行きを形作っていく。『FAR EAST』の店内を見渡せば、エジプトの職人さんに作ってもらった真鍮造りの看板にランプ、中近東を連想する赤紫に塗られた壁、ガラスジャーから取り出す様が美しい量り売りのパフォーマンスに、踊り子のような衣装を身に纏ったスタッフの可憐な動き。佐々木さん夫婦が体験してきたさまざまなノウハウが、実にたくさんの仕掛けとなって取り入れられているのが見えてくる。もちろん、お客さまに寄り添う接客もひとつの特徴になっている。「ご縁を配るつもりで試食を配るように伝えています。それには、気が利かないとできません。急いでいる方には上手く間合いをとって話しかける。自分の話が今、どんな風に求められているのか、空気を読むのです。本当に辛い人には、たったひとさじの試食が優しく差し出されるのも、温かさに感じられるものです。いつも相手に喜ばれて『ありがとう』と言われる仕事をすることが、この先のご縁を繋いでいくんだと考えています」。

役割を果たすことで見えてくる。なくてはならない存在になること。

『FAR EAST』が次にチャレンジするのは、アフリカ・ウガンダに現地法人をつくることだと言います。「ウガンダの小島にある人口300人のジャリ村には、ムワンガ兄弟が1995年から作り上げてきた住民主体の農園があります。私たちは2010年からこの農園と連携してドライパイナップルやバナナ、ジャックフルーツを輸入してきました。ある時、日本滞在経験のある現地スタッフ青年サムの田舎を訪れて、貧困に苦しむ村の実態を知ったのです。親に先立たれ兄弟で暮らす子どもたちが溢れていて、胸が痛くなったのを覚えています。朝食と昼食を提供してくれるボランティア組織の支援で生きていくには限界があると知り、自活できるプログラムは作れないかと考え始めました」。今、あちこちに生えているバナナの実を乾燥させ、ドライバナナを作るプロジェクトを進めているという。

見渡せば美味しいバナナがあり、一方で貧困に喘ぐ子どもたちが溢れている。双方を繋ぐアイディアが沸いてきた。現在、子どもたちが自分で働いたお金で学校に行けるような仕組み作りが始まっている。

「私たちはいつも、遠い未来の展望を考えて動くわけではないんです。炭や塩を販売していたころから、進んでいくと新しい課題が見えてくる。その場その場で、果たすべき役割が出てくるんです。それをひとつひとつ丁寧に、真剣に考えてこなしていく。毎日とても慌ただしいけれど、その分やりがいがあると感じています」。
 人の生活になくてはならないものを扱いたい。そんな想いからスタートした佐々木さん夫婦の旅は、異国の生活文化という目に見えないけれど確かにそこにあるものを届ける旅へと変化し、今また新たな課題に向かい始めたばかりだ。

写真 望月 小夜加/現地写真 FAR EAST/企画・文 stillwater