ついこの間まで、あんなにも猛暑にあえいでいたのに、すっかり過ごしやすくなった。そうなると食べたいものもとたんに変わってきて、まだまだ鍋物までには時間がかかりそうだが、こんにゃくの煮たのとか揚げ出しの茄子とか、そういうものが恋しくなる。小豆を煮る、というのもこの類いで、「食べたい」と思うよりは「煮たい」という気持ちが勝っている。

静かな夜更け、部屋中に小豆の匂いを漂わせつつ、他の仕事をしている感じが望ましい。大人数の家族か、よほどのあんこ好きでない限り、1袋(たいてい300g)では多い。100gか150gずつ。煮豆は足が早いから、少なく作って早く食べきった方がいい。冷凍なんてしようと思わない方がいい。小豆を煮る事を楽しむなら、何度も煮たらいい。

小豆は浸水させる必要がないので、思った時にすぐ煮始められるのも魅力。洗った小豆とかぶるほどの水を鍋に入れ強めの火にかける。沸騰したら一度湯を捨てる。これを渋切りというが、する人しない人、様々なようだ。煮方も人それぞれで、コトコトと1時間とか圧力鍋で10分とか。わたしの時間任せ方式は、茹でこぼした後再び4倍量ほどの水で煮始め、沸騰したら弱火で10分間煮て火を止め、30分放置。これを2回くり返すと、8割方煮えている。もう10分ほど煮た頃には小豆がすっかり柔らかくなっている。小豆の鮮度にもよるから、何度かチェックし確かめる。

柔らかくなってから砂糖を入れる。この時に水分が少なければ足す。入れる砂糖によってずいぶんと仕上がりの風味が違ってくるのも面白いところ。グラニュー糖ですっきり、きび砂糖はこくのある味、このところのお気に入りは甜菜含蜜糖で、上品な仕上がりに。砂糖の量も、うす甘党のわたしなら小豆の6割、しっかり甘くするなら10割くらいまでの間で好みで加減する。しばらく煮詰めて好みの固さに仕上げる。冷めると固まるので、ゆるいかな?くらいが丁度いい頃合い。

小豆を煮る時間を楽しんでいたら、おまけに美味しい物が出来てしまったという感じ。ひとさじすくっては後を引きまたひとさじ、自分好みのあんこの愛しさよ。最初から1袋煮ておけばよかった?

写真&文 中村 宏子