――先日近藤さんが主宰するコンドルズの公演『沈黙の春-6.66』を拝見しました。ダンスというと敷居が高いイメージがあったのですが、年齢も体型もさまざまなメンバーの方たちが体を目いっぱい動かして踊っているのを見て、「ダンスって楽しそう!」と素直に感じました。

近藤 僕は大学からダンスを始めたのですが、社交ダンスのような一般的にアカデミックなダンスと言われているものではなく、人が輪になったり、たわむれたり、床でゴロゴロとしているような動きのほうが親しみを持てて、おもしろさを感じたんですね。なので、『沈黙の春-6.66』もそうですけれど、コンドルズの作品には、くすぐるとか、おんぶするとか、人の日常的な動きを連ねることが多いんです。コンドルズのメンバーも、ダンスを通して自分を磨くというよりは、体をおもしろがる人が多いですね。ダンスの世界はストイックなので、どれだけきれいにおしりが上がるか、というようなことが大切だったりするんですが、僕らは体で遊ぶゲームに参加して楽しんでいるような感覚で踊っていますね。

――ダンサーは自分磨きをするものだと思っていました(笑)

近藤 僕は自分磨き、嫌いなんです。普段やっていることといえば、犬の散歩くらい(笑)。でも、自分の体が持っているものや、与えられたものを使わないともったいないとは思っています。僕は昔から犬が大好きで、小学生のとき犬を初めて飼いました。でも、しつけ方が分からなくて、めちゃくちゃな犬に育ってしまったんです。それからもずっと犬が欲しいと思っていて、結婚を機に犬を飼うことにしたのですが、知り合いの警察犬のトレーナーに、命令をちゃんと出さないと、犬は幸せではないということを教わって、昔の犬にとても悪いことをしたなあと反省しました。

これと同じように、体にもすでに備わった能力を発揮できる使い方というのがあるんです。このことに気づいたのは、30歳くらいのとき。気軽に体を動かしながら、体で表現することのおもしろさに気づけるような場所を作りたいと思い、ワークショップを始めたのですが、これをきっかけに体の動かし方をもう一回見直しました。このワークショップの肝は、体しかありませんから。そうしたら、使っていなかった部分がこんなにあって、今までの体の使い方では体の能力を発揮できていなかった、ということに気づいたんです。たとえば柔軟体操にしても、10代の頃はただのつまらないトレーニングでしたが、呼吸に意識を向けたり、イメージを描きながらやったりすると、柔軟性が高まるんですよね。これはすごく素敵なことだと思って、ワークショップでも伝えるようにしています。

自分の気持ちに正直になって恐れることなく一歩を踏み出す

――著書『からだと心の対話術』(河出書房新社)を読ませていただきました。そのなかの『くよくよと考えて自分と対話をするよりも、「からだを調子に乗せる」ことのほうが、どんなに大切なことか』という一節にとても感銘したのですが、どうしても自分の中で解決しなければという気持ちが働いてしまうこともあります。

近藤 日本人の特徴なのかもしれませんが、ひとりで悩んでしまう人は多いかもしれませんね。僕はそうならなくて、どうしようってすぐ人に聞くし、周囲の人間を巻きこんじゃうとすごく楽。もしひとりで悩んでいる人を見たら、チョップを入れますね(笑)。でも、一概にひとりで悩んだり考えたりするのがよくない、とは言えなくて、たとえばサービス業でいつも人に頭を下げている人は、ひとりの時間が必要かもしれないし、虫の研究をしている人は、顕微鏡で虫を見ている時間が最高に幸せですよね。自分にどのような時間が必要なのかは、見極める必要があるかもしれません。

――近藤さんはどのように体を調子にのせますか?

近藤 僕はすごくにぎやかな人間なんですが、たとえば図書館などで静かにしなければならない場合は、パーカのチャックをそーっと上げたり、時間をかけてくつひもをしめたりして、動作をゆっくりにします。そうすると、不思議と気持ちも落ち着いてくるんですよ。僕とは反対に、自分はふわふわとしすぎているなあと自覚していたら、ときには俊敏に動くことが必要かもしれないし、下を向いて歩いていることが多いなら、腰を伸ばして目線を上げれば視界も広がります。自分のクセを知り、行動の視点を変えていけば、体を上手く調子にのせることができると思います。

――変化をのぞむなら、まずは体を動かすことが大事なのですね。

近藤 そうですね。でも、どうやって体を動かせばいいのか、最初の一歩ってなんだかよく分からないですよね。体を動かしたい、解放したい、と感じているなら、僕がやっているようなワークショップに足を運ぶというのも、大きな一歩だと思います。行くこと自体、とても勇気がいることですから。大切なのは、おもしろいかもしれない、やってみたい、という気持ちに正直になって、恐れることなく自分に対して自分がしかけていくことだと思います。受け身というのは、いちばんよくないですね。受け身だと道も覚えないし、何を食べたかも忘れちゃうしね。

体験してみれば必ず何かが見えてくる

――今年の2月に南アフリカで公演をされたそうなのですが、言葉も文化も違う環境で踊るのはいかがでしたか?

近藤 ポンとたたけば痛みが分かるというか、僕らも南アフリカの人たちも同じ体を持っているので、普段どおりに踊りました。そうしたらお客さんの反応がすごくよくて、言葉はなくても伝わったことがうれしかったですね。そういえば、公演後の打ち上げで、ちょっとした手違いでクラブに行くことになったのですが、現地の人たちが純粋に音楽とダンスを楽しんでいて、すごく雰囲気がいいんですよね。気づいたら、公演で踊ったばかりの僕らもノリノリで踊っていて(笑)。最初は、南アフリカのクラブと聞いてどうかと思ったのですが、行ってみなければこの躍動した空気感は味わえませんでした。何でも食わず嫌いをせずに、体験すれば見えてくるものがあるし、体験しなければ分からないということを改めて感じましたね。それにしても、アフリカ人のダンス、すげーかっこよかったです(笑)

写真 野頭 尚子 / 文 小口 梨乃