先日、久しぶりに会った友人から「服を10着に絞った」という話を聞いた。お洒落番長として知られる彼女だけに、ちょっとした衝撃だったのだが、わが家の物の多さに辟易としていた中でのできごとだったので、ぬ、その手があったか! と大きく膝を打ったのだった。

この好機を逃してはなるまいと、クローゼットの引き出しという引き出しをひっくり返した。すると私の服はまあいいとして(まったくよくないけど)、目についたのが娘の衣類。正確には、服になる前の布たち。頭がお花畑だった妊婦時代、ベビーグッズの手芸本とともに、オーガニックコットンの生地を買いあさったのだ。しかもほとんどが白。あれもこれも作ってあげようと思いつつ、気づいたら娘はベビーではなくなっていた(いつの間にか二歳半!)。

まずは、行き場を失ったこの大量の白布をどうにかしたい。手触りはすこぶる良いので、娘の夏用パンツを作ろうと一念発起しかけるも、威勢よく育っている娘に、もはやこの純白はまぶしすぎる気がする。で、思いついたのが6年前から興味のあった草木染め。いつか田舎に引っ越したら……と伸ばし伸ばしにしていたが、先日、銀座ミツバチプロジェクトなる都市養蜂を取材したことから、銀座のビルでミツバチが飼えるならうちのベランダでも草木染め、やればえんちゃう? と相成った。

毒草以外の植物であればたいていのものは染料になるらしいが、気兼ねなく採取できるほどそこら中に生えているものがいい。今の季節ならやはり、どくだみ。これなら近所にすさまじい繁殖力で自生している。

「ドクダミは染まりにくいから、多めに用意してね」という、草木染めにどっぷりはまっている友の助言に従い、両手に抱えるほどのどくだみを茎ごと採取。なるべくフレッシュなほうがいいとのことだったので、さっそく大鍋で煮出し、布をひたした。うっすらと緑がかった液に、白い布が染みていく様子があまりに美しく、自分史上稀に見る繁忙期だというのに、鍋の前から離れられない。

ちなみにどくだみは、古くから十薬あるといわれていて、葉を煎じて飲む他、白い花の部分は、焼酎漬けにすれば虫さされ後のかゆみ止めになる。煮出した液は湯船にたらして入浴剤に。残った葉は、冷蔵庫や靴箱に入れておくと消臭剤の役目を果たす。くさい、繁殖しすぎ、と嫌がられがちだが、ドクダミってなかなかやりおるのだ。

美しい赤が出ると聞いた枇杷の葉も、近所で調達し、好みの色になるまで染めを繰り返した。今回は色を定着させるための媒染剤に、焼ミョウバンを用いたが、さびた釘や泥など媒染の素材によっても色は変わってくる。どくだみも枇杷の葉も、淡い色味に染め上った。鍋のサイズに対し、布が大きすぎたようで、染めむらが隠せないほどにあるのはご愛嬌。また染め直してみよう。

どくだみのあたたかな色味もそうだし、濃い緑をした枇杷の葉がこんなにも鮮やかな色を秘めているとは、草木染めって奥が深い。あの葉っぱならどんな色になるのだろうと、草木を物色しながらほっつき歩くたのしみも増えた。たで藍の苗も畑に植えたことだし、次は火を使わない草木染めもいいな。そういえば娘のパンツ……。いつになることやら。

写真&文 松田 可奈