スマートフォンひとつで何でもできてしまう時代、とても便利になった反面、私たちはいつ何時でも、情報に追われるようになりました。その結果、寝る直前までスマホの画面をのぞき込み、交感神経を高ぶらせてしまうことで、睡眠の質を落としてしまい、翌日にも悪影響を及ぼすということが日常的に起きています。

厚生労働省の統計によると、日常生活で悩みやストレスを抱えている人の割合は46.5%と、実に半分近くの人が何らかの悩みやストレスを常に抱えながら生きていることがわかります。

このような日本人の多くが抱えているストレスは、自律神経機能と密接に関連していると言われています。自律神経は、内臓や血管の機能をコントロールする神経で、私たちの生命活動の根幹を支える非常に重要な機能を担っています。

自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2種類に大別され、交感神経が体を支配すると体はアクティブな状態になり、同時にストレスを感じる状態になります。副交感神経が支配すると体はリラックスした状態になります。体が最も良い状態で機能するのは、交感神経も副交感神経も両方が高いレベルで活動している状態のときです。

このように、私たちのストレスに重要な影響を及ぼす自律神経ですが、その活動状態を知るには、血液中に含まれるサイトカインやノルアドレナリンという成分や、唾液中に含まれるコルチゾールやアミラーゼという成分を解析する方法がありますが、いずれもやや大がかりになってしまいます。

また、自分のストレスを知るためには、主観値を質問形式で回答していく問診表などがありますが、自分の感覚に依存してしまう課題があります。

この点、心拍数の変動(ゆらぎ)を解析して、自律神経の活動を定量化する手法は、現在、スマートフォンのカメラを使用して、手軽に実施できるアプリが出ており、日常のセルフチェックには最適です。

日本人が最も疲れを感じる曜日は何曜日でしょうか?

私は、自律神経を計測するアプリやウェアラブルセンサの開発を通じて、日本人の日常生活における自律神経のデータを2,000万件以上、収集しました。その結果、いくつかの重要なことがわかりました。

日本人が最も疲れを感じる曜日は、私たちのデータに基づく答えでは「木曜日」でした。週の半ばを過ぎて、あともうひと踏ん張りすれば週末だ、という木曜日に最も疲労・ストレスを感じているようなのです。自律神経の状態としては、自律神経の総活動量であるトータルパワーが低い状態です。

もちろん、このような生体情報には個人差がありますので、万人にこれが当てはまるわけではなく、あくまで全体データを統計解析した結果です。しかし、このような事がスマホひとつで簡単に誰もが可視化できれば、自分にとって、最も疲労・ストレスが高まる日は、早めに仕事を切り上げ、自分がリフレッシュできる活動に時間を費やすように、スケジュールを組むことができるでしょう。

自分で自分のストレスをコントロールできることの大切さ

「ストレスがあるかどうかなんて、知ったらかえってストレスだよ」という意見もあります。しかし、ストレス社会と言われている現代、ストレスの蓄積は、様々な生活習慣病を引き起こすと言われています。ストレスから目を背けて、がむしゃらに突っ走り、ある日突然、燃え尽きてしまう、あるいは、生活習慣病に罹ってしまう、というのは、本人にとっても、周囲の人にとっても、大変な痛手です。

ストレスの可視化によって、自分の傾向を常日頃から把握することができれば、それによって、前向きな対策を立てることができます。つまり、ストレスの蓄積を防ぐことが可能になるのです。

自律神経のバランスは1日の内でも刻々と変動しますので、スマホなら簡単に見える化しながら、次の行動に必要な自律神経のバランスに自分を導くことができます。

たとえば、これからプレゼンを控えているのに、何となく気合いが入らないときは、もしかすると、副交感神経が意外にも高い状態かもしれません。このような時は、少し短い呼吸を繰り返すことで、交感神経活動を高め、体をアクティブにしましょう。

逆にもし、寝る前なのに、「ストレス気味」「ややストレス」の結果が出てしまった場合は、呼吸法により、ゆっくり長く息を吐くことを心がけましょう。目元を温かいタオルなどで温めることも有効です。こうすることで、交感神経の活動が抑制され、副交感神経の活動が高まり、良い状態で睡眠に入ることができます。

このように、全ての行動のバロメーターとしてスマホを活用しながら、自律神経を整えるライフスタイルを送ることが可能です。きっと、「自分で自分のストレスをコントロールできている!」という新鮮な感覚に包まれることでしょう。

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ワークショップ
ストレスを軽減し質の良い睡眠へ導くためのヨガ

文・資料 医学博士、産業カウンセラー 板生 研一/編集 七戸 綾子