人間が1日平均2万回も行っているもの…呼吸。
私たちが生きていくうえで呼吸が心や体に及す影響力がとても多いことを知っていますか?


呼吸と自律神経の関わり

心を穏やかにするために呼吸法が効果的であることはよく知られています。なぜ、呼吸を整えると心が落ち着くのでしょうか。そのカギは、自律神経のバランス調整にあります。

自律神経は私たちの意志とは関わりなく、身体機能を健全に保つために働いています。それは、胃や腸の消化・吸収機能、心臓からの循環機能などです。また、寝ている間も休みなく呼吸が行えているのも自律神経が機能しているためです。

自律神経とは、交感神経と副交感神経という相反する働きの二つの神経から成り立っています。交感神経は活動しているとき・緊張しているとき・ストレス状態にある時、とくに昼間に優位になります。一方、副交感神経は休息やリラックス状態にある時、とくに夜間や睡眠中に優位になります。

自律神経のコントロールは無意識のうちに行われていますが、交感神経と副交感神経のバランスが乱れ、どちらか一方だけが優位な状態が長く続くと、倦怠感や不眠、血圧の上昇、手足の冷え、多汗、動悸や頭痛、肩こり・腰痛・便秘といったさまざまな不調が生じます。

この自律神経のバランスをとることが美容と健康のカギといえますが、そのためには日頃からストレスや疲労を溜めないための「よい呼吸の習慣」をつけることが有効です。

よい呼吸とは?

呼吸の最も大切な役割は「脳」と「体」に酸素を供給することです。その呼吸は「脳」によって無意識にコントロールされています。

日常のほとんどは「安静時呼吸」をしています。みなさんが無意識でおこなっている、いわば自律神経のはたらきによっておこなわれている静かで穏やかな呼吸です。

しかし精神的ストレスや悪い姿勢などの様々な理由によって呼吸が乱れると、呼吸機能が低下し、脳に供給する酸素が不足しやすくなります。

そうした脳機能の低下により、安静時であるのに、努力性呼吸でのみ使われる筋肉が安静時にも働くことで、脳と体は過緊張状態になり、肩こりや首の痛み、頭痛、また感情のコントロールがきかなくなるというような症状が現れやすくなります。

理想的な呼吸とは、安静時には安静時呼吸、強度の高い運動時などは努力性呼吸によって十分な酸素が供給され緊張が解かれていること。そしてその時々の姿勢や動きを助けてくれる適切な呼吸が無意識に行える状態であることです。

呼吸筋ってなに?
いわゆる呼吸に必要な筋肉、呼吸筋とは、なにを指すのでしょうか? 呼吸のメカニズムから考えてみましょう。

肺は空気の出し入れで伸びたり、縮んだりするように思われがちですが、実際は肺そのものには自動的に動く仕組みはありません。そのために、肺の下にある横隔膜(おうかくまく)を使って肺を大きくしたり小さくしたりすることになります。息を吸うとき、この横隔膜が収縮し下方に移動することで胸郭が上下に広がり、それにつられて肺が膨らみ空気が入っていきます。

つまり、呼吸にとって最も重要とされる筋肉は横隔膜です。

このほかにも、日常の「安静時呼吸」では、主に姿勢筋ともいわれる横隔膜、肋間筋、腹筋群、骨盤底筋群を使っています。また運動時前後の呼吸は「努力性呼吸」といって、安静時呼吸筋に加えて首・肩・背中、鎖骨周辺の筋肉も使っています。

1.体の緊張を解くこと

よい呼吸のために、呼吸筋を鍛えればいいのか、というとむしろそうではなく、体の緊張を解くことが大切です。

現代の生活習慣において猫背など姿勢が悪い人が多く、運動不足による体の硬化、またストレスなどによる過剰な緊張によって、呼吸をサポートする筋肉の機能が正しく使えていないことが多いとされています。

そうした過剰な緊張がある中で先に鍛えようとすると、さらに背中や肋骨を緊張させ、過度に硬くなった肋骨は横隔膜の可動域をより小さくしてしまいます。結果、努力性呼吸のときのような筋肉を使うことになり、首から肩、背中や腰まわりの筋肉が凝り固まってしまう場合があります。

人間は普段使っていない機能はすぐに忘れてしまいます。単一化した呼吸のパターンが24時間続くと、つまり横隔膜をあまり動かさない呼吸をしていたとしたら、その呼吸を“常にするべき呼吸”として脳は記憶してしまうのです。そのため、まずはよい姿勢を獲得して、呼吸筋をしっかり使う第一歩として、筋トレやストレッチをするより、脳と体の緊張を解くことをお勧めします。

横隔膜の動きをチェックしてみよう

1)両手を肋骨下部に当てて、呼吸する。
2)息を吸ったとき、肋骨が開いているか確認。
3)息を吐いたときに、肋骨が閉じているか確認。

この動きがじゅうぶん行えている呼吸は、横隔膜の動きがスムーズで効率的に肺に空気を出し入れできていると考えられます。一方、この動きが小さい場合は、横隔膜以外の呼吸補助筋を使って呼吸しているため、首から肩、背中や腰まわりの筋肉が凝り固まってしまう原因になります。


体に緊張があるときの、かんたん呼吸エクササイズ

全身に緊張がある状態の場合は、まず背中を丸めた姿勢でゆっくり呼吸をすることからはじめます。チャイルドポーズの姿勢は自然に背中が丸くなり、体幹も安定された姿勢になり、初心者の方には大変お勧めです。ゆったり吐くことが、脳をリラックスさせます。

1)チャイルドポーズの姿勢で座る
2)背中をできるだけ丸くして一度口から息をゆっくりと吐き、鼻から静かに息を吸います。
3)慣れてきたら5秒で吸い、5秒で吐いて、5秒止める
※呼吸が荒くならない範囲で行うこと。回数にはこだわらずゆったり楽に行える程度で。

2. よい姿勢を保つこと

呼吸に関わる筋肉のほとんどは、よい姿勢を保つことに必要な「インナーユニット」とも言われる「姿勢筋」でもあります。ここで言う姿勢筋は主に、横隔膜と腹筋群、骨盤底筋群です。

息を吸うとき、横隔膜が下がって肺を減圧し、外気を取り入れます。そして吐くときは横隔膜が上がり肺に加圧して空気を排出します。横隔膜が下にしっかりと可動すると、内臓器が上から圧迫され、下方から支える骨盤底筋群が内臓器を押し返すことで腹部内圧が高まります。

この圧迫力が体幹を安定させ、体全体の筋肉や骨格を機能的な状態“よい姿勢”へ導きます。よい姿勢でいると、腹部内圧が高くコアが安定していて、脳と体に余計な緊張がない状態でいられます。

「正しい呼吸をすると、姿勢がよくなる」この逆も成り立ち、「よい姿勢を常に意識することで、呼吸も正しくできるようになる」ということです。呼吸だけに意識をむけるのではなく、よい姿勢を維持することが大切です。


3. ゆったりとした鼻呼吸を心がけること

人は呼吸をしないと生きてはいけません。しかしその呼吸のほとんどが「無意識に行う呼吸」(安静時の呼吸)です。本来、呼吸の仕方は考えて行うものではなく、脳が自然と呼吸や体をコントロールするものです。例えば筋力があってもその操作性がなければパフォーマンスが向上しないのと同じです。

まずは日常でゆったりとした鼻呼吸を心がけましょう。口呼吸をやめて、鼻呼吸をすることで、血中の酸素と二酸化炭素のバランスがよくなり、結果、自律神経の安定、ストレスへの耐性、免疫力の強化、精神的な安定などが得られます。

ゆったりとした呼吸は、脳と体の緊張を解き、自ずとよい呼吸・よい姿勢に近づき、心も体もしなやかさが身についてくるでしょう。

ぜひ、気づいた時には、「よい姿勢」「ゆったりした鼻呼吸」を思い出してください。

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文・監修 ヨガインストラクター アヤコ/動画協力 ヨガインストラクター アヤ/モデル ヨガインストラクター サチ(写真)、はるか(動画)/編集 七戸 綾子